写真マンガでわかる 住宅メンテナンスのツボ


はじめに

 古くから「衣食住」という言葉が使われますが、人が生活していくうえで最も基本的な要素が衣食住です。衣食住のなかで、「衣」と「食」については、現在の日本は世界的にみて素晴らしい水準にあります。ところが、「住」については「ウサギ小屋」などと揶揄されてきました。美しいとは言えない街並みが多く、大多数の日本人が豊かさを実感できないでいます。
 私は、住宅業界で35年間、施工面を担当してきた技術屋ですが、苦労して建てた家がいつのまにかなくなっていることがあります。施工に携わった者としては、一抹の寂しさを感じます。まだまだ充分に耐久性はあるはずですが、なぜか解体撤去されてしまいます。
 日本では、「住」に関する政策がうまく機能しませんでした。新築後20年も経過すれば建物の評価額がゼロになってしまう税制、改築するよりも解体撤去して新築する方が安いと感じて新築する人、常に新しいものを良しとする国民性などは、日本の常識が世界の常識から乖離している例と言えます。
 世界的に見て日本は豊かなはずですが、豊かさを実感できていません。その原因の一つが、住宅を30年程度で解体撤去して、新築住宅に建て替えているシステムにあります。長期の住宅ローンを組んで、払い終わると、即解体撤去して新築住宅に建て替えます。再び住宅ローンが始まるのです。
 耐用年数30年と言われる住宅に30年ローンを組むということは、常に住宅ローンの支払いが必要になるということです。銀行への支払いのための生活では、豊かさの感じようがありません。
 ところが、30年で寿命と考えられている住宅ですが、実は2倍の60年、あるいは100年の寿命があると仮定すると、住宅ローンのない期間が過半数になります。1年あたりの建設コストや居住コストは半減します。これなら豊かさが実感できるかもしれません。
 なぜ住宅は30年の寿命しかないと決められたのかはわかりませんが、現実には30年で解体撤去されています。建物は、メンテナンスをきちんと行えば、半永久的に持たせることが可能です。適切にメンテナンスを繰り返して、悪いところのみを補修し、補修できないところは取り替えます。敷地の地耐力に応じた基礎補強を行い、構造強度などの条件を満たせば、通常のメンテナンスで対応可能となります。特別強度の仕様や高級な仕様にしなくても、可能です。
 住宅現場に携わる技術者が、住宅メンテナンスの知識、特に定期点検時のポイントとその対策を勉強すれば、入居者に的確なアドバイスをすることが可能です。住宅会社でメンテナンスを担当する技術者は、入居者にとって、最も長い付き合いとなる職種です(30年以上の付き合いとなる場合もあります)。入居者の満足感に最も大きな影響を及ぼします。きわめて長期間にわたり、住宅の技術者が、ホームドクターとして、入居者との間で良い関係を継続できるならば、素晴らしいことです。
 住宅を建てた住宅会社がしっかりと管理していれば、これだけ多くのリフォーム会社は存在できないはずです。住宅会社が途中で管理を放棄するから、リフォーム会社にチャンスが回ってくるのです。リフォーム専門会社がメンテナンスを行うことは多いですが、継続して管理できるかが問題になります。住宅のメンテナンスには技術面の知識・経験と意欲が要求されます。職人の世界では「アタマ・ウデ・ヤル気」が必要と言われますが、技術者の世界でも同様なのです。
 メンテナンス担当者のアドバイスを採用するかどうかの決定権は入居者にあります。技術者としては、説得力のあるアドバイスができるように、自分自身の技術水準と説明能力を高めておく必要があります。メンテナンスの技術者は、ホームドクターとしての経験を積むことによって、入居者の幸せに貢献できる素晴らしい職業なのです。
 本書では、まず序章で日本の住宅の現状を把握し、続く第1章から第11章で現場定期点検時の確認順に100項目を解説しています。住まいのメンテナンスに携わる技術者の皆様に役立つ内容であると確信しています。

玉水新吾・都甲栄充