主婦建築家と考える
住まいづくりのウソ?ホント?


はじめに

 住まいづくりを考えだすと、多くの方々は「しっかり考えなければ!」と思うでしょう。しかし「どうすればいいのか」となるとよくわからず、まずは「住宅展示場(住宅メーカーが集まっている展示場や工務店が独自にやっている展示場があります)へ行ってみる」とか、「住宅情報の新聞折り込みチラシを見る」とか、「住宅雑誌を買って読んでみる」とかするのではないでしょうか。そして、「これからの住まいづくりはどのようなものがいいか、私たちが望むのは何なのか」ということについて、「にわかに目にしたこれらの情報」と、「今まで自分が暮らしてきた中で得た住まいに関する情報」をベースにして「にわか住まいづくり」の意識を持つ方が多いようです。そして、「展示場はこうしているからそのようにするのがいいかナ」「こんな家が多いから、今はこのようなのがいいのかナ」「こんなめずらしい提案がある。今度はめずらしいことをいっぱい取り入れたいナ」「かっこいいのが魅力だナ、みんなと同じではなくかっこよさがほしいナ」「すてきそう!やってみたい」「今の流行を取り入れよう」「いや、今までこうだったから今までのようなのがいいかナ」、このようなことをベースとして住まいづくりを進めていくのではないでしょうか。
 一方、住まいをどのようにして手に入れるといいのかを判断するに当たっては、「今までの生活のなかで得た意識」と「にわかに調べた知識」と「住宅の相談に行った業者との会話」をベースとして進めていくのではないでしょうか。住まいづくりの準備を進める際の判断においても、具体的な住まいの内部を考える時の判断においても、「皆さん、ちょっと待って下さい!」と思うことが多くあります。
 例えば、誰しも、豆腐や野菜を買う時、「どの店で買おうか」「金額は」「買う量(大きさ)は」、などといろいろ考えることでしょう。しかし、住宅(時にはプラス土地)は人生をかけた買物であり、その後の暮らしを大きく左右するものですから、豆腐などよりもっともっとよく検討をしなければ…と思うものの、家づくりはあまりに遠く、わからないことが多いからか、「お得ですヨ」「早いですヨ」「これいいですヨ」という業者の言葉に流されているように思うのです。
 住まいの内部を具体的に考えるに当たっても、図面や写真を見ていると、主人公が誰だかわからない決め方を、建築主もそして設計者も無意識のうちにしているような姿を多くみかけます。
 私は住まいを設計する時、どうしたいのかを白紙の状態から考えて設計するようにしています。
 「普通はこう」とか「みんながこうしているから」など、「みんなが」「普通は」ということをベースにした図面(住まい)を見た時、この設計が住まう方にとって「本当に望ましいですか? そして理想としている姿ですか?」と聞いてみたく思うのです。
 また一方、建築主の方が「すごくかっこいい」「わっ!すごい!」と言う図面(住まい)を見た時、これもまた、住まう方にとって「暮らし始めてからも嬉しいことですか?」と聞いてみたく思うのです。
 住まいは数学のように「これが正解です。そしてこれは間違いです」というものではありません。ですから「普通はこうだから」とか、「みんながこのような住まいに住んでいるから」という考え方もだめではありません。また「こんなすごい住まいにしよう」という考え方もだめではありません。
 しかし、いろいろな気づきをした上で、「我が家にとって本当にいいのか」を繰り返し考えてみることも大切であると思うのです。
 多くの人は、住まいづくりを人生で何度も体験することはありません。
 また、住まいのことを学ぶことは、残念ながら日本ではあまりありません(家庭科の授業の中にありますが、住分野の授業時間はあまりとれる状況にはありません)。「体験」も「学び」もないのです。
 一方、建築士(建築家)の中には「住宅の設計が得意です」「住宅の設計をしたいです」という方々も多くいますが、建築という視点では当然プロであろうと思われるものの、「暮らし」という視点での(例えば、食事をどう作るとか、衣類の管理はとか、子どもをどう育てるかとか…というような家政学の)「学び」は残念ながら建築学の中にはないのです。「学び」「体験」の両方の中で「暮らし」を見つめて設計することができれば理想ではないだろうかと思うのです。しかし、それがよくわからないという方にいろいろな「気づき」をしていただくために、そして「ほんとうにこれでいいのか」を考えていただくために、この本では、そのいくつかを拾い出してみました。
 「これはダメ!」「こうするといい!」と断定して読み取っていただこうとしているものではありません。あなたが、「自分たちの家族の住まい」について、立ち止まって考えるヒントとして読んで下さい。住まいを考えようとしている方にとって、「自分が暮らす住まい」について判断する時の考えの引き出しの一つとして、役立てていただければ幸いです。
 住まいは敷地・予算・家族構成・暮らし方など、一件一件異なります。多くの条件の中、暮らしを見つめつつ、設計するものです。
 一方、設計する者の設計手法や持っている力量により(あなたの)希望が可能ともなり、不可能ともなり、望ましい姿ともなり、望ましくない姿ともなりえるのです。その意味では、住まいの設計の仕事をしようとされている方々にも、是非手にしていただき、設計で一本のラインを引く時に「このラインは、暮らしを考えた時にどういう意味があるか」「どうラインを引けばいいか」など「一本のラインの重み」を意識して設計に活かしていただければ幸いです。

住まいの研究室 井上まるみ