現場直伝! 躯体工事の100ポイント


はじめに

 昭和40年代、筆者がまだ現場の若手技術者のころ、建設工事現場の配員構成はピラミッド型であり、諸先輩から現地で現物を見て納まりや施工にあたっての心構えなどを適時教えてもらったり、職人さんにも教えてもらったりして覚えたものだが、今の若手現場技術者は、少数配員のもとで多忙な毎日を凌いでいるので、現地で時間をかけて学ぶとか教えてもらうことが難しい環境になっていると思われる。特に入社間もない若手技術者は、時間的にも精神的にもゆとりがなく、技術的なことはともすれば何だかよくわからないままに現場を終えてしまうことが増えてきているのではなかろうか。
 本書は、筆者が長年にわたり従事してきた現場指導の中から、若手現場技術者にもう一歩進んで実践してほしい心構えや、知っておいてほしい基礎知識を、自己流表現ではあるが肩の凝らないよう、できるだけわかりやすく書き留めたものである。そういうこともあり、本書は電車の中でも気軽に手にとって読めるような小型版とし、右ページは左ページの文章を手助けするイラストや写真・図・表を掲載し、文字ばかり読み続ける精神的な負担を少しばかり軽減するよう心がけた。
 題材として躯体工事を選んだのは「躯体の品質は建物の中で生活を営む人々の生命・財産への関わりが極めて大きい」と常日頃考えているからである。ところが、若手技術者は内容が多彩な仕上工事に比べると躯体工事は今一歩関心が薄く、(彼らの日頃の多忙さも影響して)ついつい専門工事業者に任せがちとなり、若いうちに身に付けておいてほしい躯体に関する基礎知識や技術への関心が疎遠になりつつあるのではないかという思いを持っている。
 「これだけは知っておいてほしい」の内容は全て筆者の知見にもとづいたものであり、置かれた状況によっては適切でない場合があるのはお許し願いたい。また、既往の施工の参考書のようにあらゆる内容が体系立てて網羅されているわけではないので、調べたいものが出ていないという項目は多々あるだろうし、専門書のように奥深く立ち入っていないところも多いのでご容赦願いたい。これからの現場を担う若手の建築系現場技術者に読んでもらって、躯体工事により一層関心を向けていただければ幸いと思っている。

2012年4月

中川 徹