建築の世界へさらなる一歩をふみ出そうとする皆様へ!
過去に「建築はトラブル産業」といわれた──時代がありました.「雨仕舞ができて一人前」ということも,いわれました.「水」との苦闘を,くりかえしてきたことは事実です.それゆえ少しでも,わたし達の体験がお役に立てばと思い,1994年に『水にまつわるトラブルの事例・解決策〈建築編・設備編〉』を出版しました.
あれから早くも6年がたっています.
この平成不況の中,建物は,バブル期のような重厚長大・ポストモダン的デザインが影をひそめ,極めて軽快で明るいものに変化してきました.
人間の一生は,青年期・壮年期・円熟期とそれぞれに応じた美しいときがあります.それと同じように建物にも,古来より,古風の美・わびさびに通じる「風格」を保つ姿が見られます.
したがって,一般にいわれる「汚れ」(本来あるべき初期の外観から変化して,大多数の人が見苦しく思うような状態)自体を「悪いこと」そして,即「トラブル」というわけにはいきません.今回はトラブル・シリーズの一環として「美しい顔も,ほっておくとニキビが出たり,荒れたり,トラブルを起こしますよ」「だから少しはお手入れしてください」と,注意を促したい次第です.
消費が最大の美徳とされた時代は風化し,今は,物を大切にしようという昔の美風が見直されています.ひとたび,世に生まれでた「建物」を美しく保つことは,わたし達のつとめです.建築人は,道ゆく人びとには「いつまでもキレイな建物だ」,発注者からは「手のかからない長もちする建築だ」と評価されたい気持ちをもっています.
景気低迷,地球環境問題をかかえたなかで,建物の長寿命化・ライフサイクルコストの低減は,重要な課題です.
この本に集められた資料は,関西でのプロジェクトに関わってこられたゼネコン6社が,数年にわたり収集してきた事例・対策です.読者の皆さんは,良くない事例・好ましい事例を比べて検討され,新たな工夫を加えてみてください.
この本が,皆さんの仕事の上で少しでもプラスの助言となれば,ほんとうにうれしいです.
2000年春
(社)日本建築協会出版委員会
委員長 山田 修
「建物の汚れ」編集委員会
委員長 上原正行