建築計画基礎
計画の原点を学ぶ


まえがき


 現在,建築計画のありかたが問い直されている.戦後,大きく発展した「建築計画学」は,戦後復興の一環として建築の水準を高めるうえで,多大な貢献をしてきた.だが一方で,「建築計画学」の限界や問題点が指摘され,また社会が大きく変化したこともあって,設計と「建築計画学」が大きくしてしまい,その溝は充分に埋まらないまま今日に至っているように思える.このことがその間,人間不在の建築,安全性や耐久性を軽視した建築が多数生みだされた一因であることは,否定できないであろう.21世紀の日本が直面する大きな課題である「少子高齢化」「ユニバーサルデザイン」「安全・安心な社会」「地球環境問題」に対して,建築計画はどのように社会に関わり,貢献すべきかが問われている.
 本書は,このような状況をふまえ,定型化していた従来の建築計画の教科書の構成や内容を大きく見直し,「建築計画の基礎」を「人間」「安全・安心」「環境」という視点から横断的に学び理解することを目的として企画された.本書の章構成が,「序章 建築計画の役割」「第1章 人間をとらえる」「第2章 人間と環境」「第3章 人間の行動を知る」「第4章 建築を計画する」「第5章 非常時の安全・安心のデザイン」「第6章 サステイナブル・デザイン」となっているのは,そのためである.
 本書は,どこから読み始めてもよい.だが,通読すれば,各章が相互に有機的かつ緊密に関連していることに気付かれるであろう.本書が,建築計画の教科書だけでなく設計演習,さらには実務においても広く読まれるならば,筆者一同望外の喜びである.

 なお,本書は企画から出版まで8年もの歳月を要してしまったが,この責任はすべて執筆代表である私にある.学芸出版社の吉田隆氏と村田譲氏には,長年にわたって根気よくおつきあいいただき,叱咤激励していただきました.ここに,両氏に対しまして心より感謝申し上げます.

2010年9月  執筆者を代表して
吉村 英祐