鉄骨構造


まえがき

 明瞭な弾性域と塑性域の存在,高い靭性,均質等方性,など,鋼材は素材の力学的な性質から構造物全体の挙動を説明しやすいはっきりとした特性を持った材料である.また,木造建築と並び,鉄骨構造は日本国内で最も多く採用されている構造種別の一つである.そのため,鉄骨構造学は建築学の中の重要な学問分野として理論的あるいは実験的な方法に基づいてすでに体系化されており,それを学ぶための優れた教科書もたくさん存在している.
  一方,大学をはじめとする専門教育がより一般化し,従来に比べると様々な経歴や知識を持った人があらたに鉄骨構造を学ぶ機会が急増している.こうした現状を考えると,鉄骨構造を習得する上で最低限必要な内容をまとめ,それと実設計との関わりをわかりやすく説明したテキストの存在が新しく求められているといえよう.
  本テキストは,初めて鉄骨構造を学ぼうとする諸氏にとって,鉄骨構造の理解と実設計のために必要な最低限の内容をわかりやすくまとめたものである.鉄骨構造の設計の基本といえる(1)材料の明瞭な弾塑性挙動,(2)座屈,(3)接合部,この3点に焦点をしぼり,各種設計式や設計の考え方を力学の基礎理論を使って可能な限り体系的に説明することに心がけた.特に,座屈に関しては,鉄骨構造において顕著な現象であると同時に,座屈現象を理論的に理解し,座屈設計式の導かれた基礎的なプロセスを理解することは鉄骨構造を勉強する上での醍醐味の一つと考えている.この醍醐味が少しでも味わえてもらえれば幸いである.
  なお,本書は鉄骨構造物の設計で最も基本的と言える内容を理論から設計例に渡って一通り解説しているが,構造設計全体が多岐に渡っている今日,本書に収められている内容以外にも設計上重要な事柄は少なくない.さらに詳細な鉄骨構造の勉強に進みたい読者は鉄骨の設計全般を網羅している体系的で優れた教科書を参考文献としていくつか紹介しているので,本書を早く卒業しぜひそれらの書に進まれることを期待している.

2004年5月 著者一同