建築構造力学T

まえがき

構造力学は、建築構造物の外力下が働いたときの挙動を知る上で必要不可欠であるが、建築学を学習する中で苦手としている人も多い分野の一つである。

我々は日常生活において、力を受ける物体がどのような挙動をするのか、無意識のうちに多くの経験をしている。例えば、1)重い物でもてこの原理を使って小さな力で動かせる。2)ナットを締め付けたりゆるめたりする時に、長いスパナでを使ったほうが小さな力ですむ。3)2点で支えられた木材に載ったときに、支える点の距離が2倍になったら木材のたわみは、2倍ではすまない。などなど、このような経験をしている人は多いと思う。これらのことを感覚で感じ取るときに、その感じ方は人によって異なる。これに対して科学的な裏づけができれば、皆が同じ物差しを使ってその現象を理解することができる。その物差しの一つが力学である。

建築構造物は大規模であるし、一品生産物である。それゆえ、造っては壊してみて安全なもの、よりよいものにしてゆくというのは難しい。だからこそ、安全で経済的な建築構造物を造るためには建築構造力学が重要なものとなる。

本書では、静定構造物を対象とした建築構造力学を理解して戴くために例題・図・写真を豊富に示して説明している。前半では、構造物の反力および部材内に生じる力を扱い、後半においては、断面に生じる力、部材の変形を扱っている。執筆にあたり、これまでの講義で様々な学生と接してきたことが大いに役立っている。特に、数学・物理を受験せずに入学した学生に教えた経験が貴重であった。

本書が読者の勉学の一助となることを切望する。

執筆者を代表して 坂田弘安