建築構造力学
〈わかる建築学〉4

まえがき

 建築物は,柱を立てて梁を架け,小屋組を造り,屋根を葺き,そして壁で覆い,生活空間を築いたものである.この建築物は,時として地震,台風,豪雪などに曝されるが,構造的に安全に設計されていなければならない.もちろん建築設計業務には,意匠設計,環境・設備設計にあわせて建築物の安全を確保するための構造設計がある.構造設計は,外力によって部材や接合部において大きな変形や破断が生じないよう安全を確保することであり,構造力学はそのための力の大きさを決める手段である.昨今の建築作品には,トラス構造,サスペンション構造,膜構造などの構造形式をデザイン表現した建築物が多く出現している.バランスのとれた建築は美しいとよく言われる.バランスは建築物内を流れる力の伝わり方そのものである.力の伝わり方を学ぶことそれ自体が構造力学の勉強であるかもしれない.
 これまで,建築を学ぶ学生にとって,構造力学は建築学の中でも苦手のジャンルとして捉えられ,とくにデザイン志向の強い人の中にはその必要性をも疑う人たちが多くいるのも事実である.苦手意識をもつ学生には,数学や物理が苦手だから構造力学はもっと難しいのではという先入観や,単なる力学の勉強に終始し理解の達成度が見えにくいなど,さまざまな要因を含んでいると思われる.苦手を克服するには,理解しようとする努力はもちろんのことであるが,たとえば学習に躓いた時の一助が教科書に記述してある,読み返せば不明な点や問題を解決してくれる,さらに力学が好きになるための工夫があればと考えている.
 本書は,構造力学の初学者を対象としている.しかし,これまで力学を学んだ人でも理解に苦しんだことを解決するための手助けとなるよう配慮している.また,建築士試験の構造科目の内容を理解できる基礎能力が身につくよう,一般的な構造力学のほかに材料力学,保有耐力,振動応答の問題にまで,基本事項について学習できるよう配慮している.また,本書での構造力学の学習は高度な数学を必要としない範囲としており,高等学校において学んだ初歩的な三角関数,微分法や積分法を理解していれば十分であろう.この範囲外の数学については付録に記載し平易に解説している.
 本書の構成は,15章だてとなっている.各章の末尾に理解度を高めるため豊富な練習問題を設けているので,有効に活用いただければ幸いである.
執筆者一同