一級建築士設計製図試験 エスキースFAQ


はじめに──本書を紐解いていただいた受験生の皆さんへ

はじめまして。学科製図.comの曽根徹です。

「建築を志すからには、一級建築士をめざす!」
「最低限、必要な資格なんだよなあ」
「取得しても今の職場じゃ意味がないんだけど」
「取るまでは、絶対あきらめない」

一級建築士試験、とりわけ、製図試験には多くのドラマが待っています。このデジタル化が進む社会にあって、手で描くというアナログな作業は、単にイエスかノーかという単純な図式では計りえない部分がついて回ります。この部分は、CADでしか図面を描いてない今の世代にとって、非常にわかりにくい世界を形成しているように思われます。

●複合された知識を問われる試験
この試験には、これが正解だという考え方はありません。敷地や資金、用途や法規などに照らし合わせながら、一つ一つの建物を設計していくように、たとえ試験といえども、1枚として同じ図面はないのです。

そういう設計図書としての図面が試験課題なのですから、標準的な解答例は存在しても、「正解」というものは存在しないわけです。

ですので、正解を選択する力というよりは、バランスの取れた、要求事項を満足するような判断力・適応力が必要になります。

また構造・設備も含め、専門的な理解と共に「横断的理解」が必要です。

加えて、通常、設計するには何ヶ月もかかる3,000m2級の建物が試験に出題されますが、それを5時間30分で計画から製図まで行う試験であるということ、つまり5時間30分という試験時間を想定したトレーニングが不可欠だということを忘れないで下さい。

●本書の使い方──背景と目的
本書は、製図試験の解答プロセスを、「読解=理解する」「エスキース=解く」「製図=描く」という3段階に分け、各々の段階において、3,000名以上の受講生の声を元に、Q&A形式でポイント解説したものです。

受験生の皆さんの悩みは、既に類型化されており、同じようなパターンで構成されている場合がほとんどです。特に、「エスキースはそれなりにできるが、どうも全体をはずしているケース」や、「計画はできるが出題意図を読解し得ていないケース」、また、「意図は理解し得ているが、計画がうまくまとめられないケース」などの多くはパターンが酷似しています。

これらのデータは、今後の受験生にとって、非常に貴重な情報性を持ち合わせていることから、1冊の書籍としてまとめておこうと考えた次第です。

漠然と「わからない」という状態から、皆さんご自身がこの「わからない」を具体的に「問い」として立てられるように、各章の冒頭に仮想ディスカッションを設けました。そして、そのディスカッションを受けてQ&Aが展開するような構成としました。

この試験課題をまとめるエスキースの方法及びそのエスキース手順については、『エスキースアプローチ』(学芸出版社刊)を併せてご覧いただければより理解が深まると考えております。

本書は、拙著『エスキースアプローチ』の姉妹書として、弱点を補強するための学習方法を中心にまとめておりますが、単独でも十分ご理解いただけるようにつとめております。

また、5時間30分のトレーニングという点では、受験生の試験当日の心境を疑似体験できるように『エマージェンシーマニュアル』(学芸出版社刊)というドキュメントをまとめております。

●製図試験経験値に合わせて
なんとか3時間で図面が描ききれるようになったが、課題文読解もエスキースもどうもうまくいかない方への学習方法。それを考えることが本書執筆への原動力でした。

多くの方にとって、共通のウィークポイントがあります。しかも意外と自身が気づかなかったところにあることも多いのです。じっくり本書を最初からしらみつぶしのように読んでいただき、かつ実践していただければと思います。

●不合格の原因が不明な方へ
まず、皆さんご自身がウィークポイントだと感じた項目から読んでいってください。不合格の原因が不明な方の多くは、モチベーションも下がっているように思います。大切なのは、感じ取ること。そして読んで少しでも納得する部分があれば、即実践に移してみてください。その感じがつかめたら、じっくり読んでご自身の弱点克服につなげていきましょう。

●製図試験を初めて受験する方へ
本書は単なるFAQにとどまらない様々なレベルの疑問と悩みをバックボーンにしています。各質問での詳細よりは、むしろこの試験が持っている独特の雰囲気をイメージしていただければと思います。さらに製図試験とはどういうものなのか、という体験談ドキュメントとしては拙著『エマージェンシーマニュアル』を、製図試験のしくみや実際の解き方については『エスキースアプローチ』を読まれることをお勧めいたします。