マルシェのつくり方、使い方
運営者・出店者のための教科書


おわりに


 2002年に最初の会社を立ち上げた時から「小学生のなりたい職業1位を農家にする」という夢があります。それを達成するべくさまざまな農業支援事業に取り組んできました。農業支援と言いながらも、生産はしない、生産支援はしない、流通はしない、産地にもいないという、どこが農業支援なのかと疑問に思われる方法をあえてとってきました。
 マルシェには四つの楽しみがあるといつも言っています。「見つける楽しみ」「会話する楽しみ」「食べる楽しみ」「また会う楽しみ」です。
 自慢の野菜を持参して販売する農家にとっては、「提案する楽しみ」「聴いてもらえる楽しみ」「食べてもらう楽しみ」「もう一度会って、美味しかったと言ってもらえる楽しみ」です。お客さんから応援してもらうと、次に作物をどうつくろうか、どんな作物を販売して喜ばせようかと考えを巡らせるようになります。そうしてマルシェを楽しみながら奮闘する親の姿は子どもに伝わっていきます。そうすると、後継者不足と言われる農業にも小さな変化が起きてくると思います。
 マルシェの常連のお客さんは、マルシェ以外で野菜が買えなくなります。マルシェで買った鮮度の高い食品が日々の食事を充実させると、舌は肥え、食事の楽しみ方がどんどん広がります。出店者と出会って家族で畑に遊びに行くようになり、農業や食材の美味しさを学ぶようになります。都会のマルシェで育った子どもたちの中から農業に興味を持ち、農家を目指したり農業を応援したりする人が出てくるかもしれません。
 マルシェは、農家の子どもも都会の子どもも農業に憧れるきっかけとなる一番の舞台ではないでしょうか。マルシェは農業の素敵な未来をきりひらいてくれると私は信じています。
 日本には、本書で解説してきた「コミュニケーション型移動小売業」のマルシェがまだまだ少ないと思います。イベントとして開催するマルシェや、農家が対面販売をしないマルシェは増えていますが、地域密着型のマルシェはあまり増えていません。
 コミュニケーション型移動小売業としてのマルシェづくりには最低3年はかかるため、それなりの忍耐やリスクも覚悟する必要があります。それでもこうしたマルシェが日本に増えてほしいと願っているため、今回、そのノウハウを一冊にまとめました。
 本書をきっかけに、全国に素敵なマルシェが増え、ロンドンのように行政がマルシェに対する指針や支援を表明してまちづくりの一環として取り組む自治体が現れてほしいです。マルシェが日本人の生活に定着し、商店街のように専門店が集まり、買う人が集まり、笑顔が溢れ、交流が生まれ、そこから新しい価値がたくさん生みだされ続ける場所になってほしいと思います。この思いに共感してマルシェをやってみたいと思う方は是非ご連絡下さい。一緒に素敵なマルシェをつくりましょう。
 私は農業プロデューサーとして、マルシェを日常化させていきます!
 最後になりますが、マルシェの運営に関わる機会を与えて下さった森ビル株式会社の田中巌さんはじめ歴代の担当者の皆様、本書の出版でお世話になった学芸出版社の宮本裕美さん、インタビューに協力して下さった皆様には感謝申し上げます。そして東京で一緒にマルシェを運営してくれているマネージャーの佐藤千也子さん、札幌で新しいマルシェの業態に挑戦してくれている成田恵さんと竹村果夏さん、そしてこれまで一緒にマルシェを運営してくれたスタッフや出店者の皆様、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。そして、本書をお読み下さった皆様、ぜひマルシェに遊びに来て下さい。

2019年9月
脇坂真吏