地元を再発見する!
手書き地図のつくり方

おわりに

何度も何度も折りたたんだり開いたりして、折り目が破れかけているA3のコピー用紙がある。気になったところに引いたピンクの蛍光マーカーが、白黒の手書き地図の中でやけに浮いて目立つ。

なんのことかと言えば、第1章「すごい手書き地図 その1」で紹介した、ときがわの手書き地図のことだ。もう8年になるだろうか、ぼくの手帳に大切に挟みこんでいる代物で、これを初めて手書き地図推進委員会の研究員たちに見せた時の興奮っぷりは、今でも忘れがたい出来事だ。手書きの地図の大いなる可能性と面白さとを、みなで分かち合った瞬間だった。

地図なのに、まるで“読み物”のような手書き地図。じっと見つめていると、なんだか大切にしている愛読書のことを思い出すのだ。その本には日々の物語が綴られていて、忘れてはならない人生の楽しみ方のようなことが記されている。作者にはどこか“偏愛”的なところがあって、とても愛嬌がある人なんだろうなと想像する。手書き地図とは、そのような本と同じように“ 物語”を感じさせてくれるものなのだと思うのだ。作者の愛すべき“カタヨリ”が、誰に邪魔されることなく堂々と表現されているのが面白いし楽しい。こういう遠慮のない奔放な感じが、手書き地図のよいところだろう。

そんなわけで、個人的で属人的な感覚を大切にしているわれわれの哲学と日々の地道な“ 寄り道”活動を面白がってくれる出版社と出会ってしまい、こうして本にまとめることになった。書き散らかした四者四様の原稿を神ワザのごとくまとめあげる辣腕編集者の岩切江津子さんには、もはや頭があがらない。そして、ともに手書き地図の可能性に目を輝かせる手書き地図推進委員会メンバーたち、各地の役場や企業の方々はじめ、ワークショップに参加し楽しい時間をともにしてくれた地元の方々との出会いは尊く、感謝してもしきれない。そういう小さな奇跡の連続によって、この書は日の目を見ることになったわけだから。本当にありがたいことだ。

本書では「あなたの日常は、誰かの非日常」ということを繰り返し述べている。例えば、ぼくはアジフライに「しょう油」をかけるのが日常である。魚にソースなんて非日常、考えたこともない。あなたは、どっち派だろうか。ほー、タルタル派? えっ、ケチャップ党??しょう油なんて信じられないだって??? うそーん、それあり得なーい、じゃあ採用(笑)!

と、この書を読み終えたばかりのあなたとなら、そんな“話だけ”で何杯でもメシが食えそうだ。いや、メシ食うならアジフライは欲しいけど。もちろんしょう油でね!

2019年6月吉日
手書き地図推進委員会 研究員 大内 征