ローカルエコノミーのつくり方
ミッドサイズの都市から変わる仕事と経済のしくみ


Epilogue
「あるもので作る」スモールビジネスのススメ

 本書で紹介した人たちのビジネスや活動は、この数年で小さく神戸で生まれたものばかりだが、徐々に雇用を増やしたり、仲間を増やしたりしている。同じ神戸で周辺を見渡しても、最初は1人や2人だった事業者が複数人を雇用している知り合いが増えている。「顔の見える経済」の連鎖をつくり出すことができ、「面白い!」と思えるような仕事を創出できれば、その街へ移住していく若者は増えるだろう。また、その街で育ったビジネスや活動は、同じ世界観を持ってゆるやかな広がりを見せていくだろう。こうした連鎖が進んでいくことで、自ずと地方都市の経済は自立し、楽しい街になっていくのではないかと推測する。

 これからはあるもので作る時代だ。地域にある素材・材料・食材を使う、古い建物を再利用する、耕作放棄地を使う、近くの森の間伐材で家をつくる、山を使う、古い街を使う。あるもので作るには良い素材がたくさんある場所でなくてはならない。その点、ミッドサイズの都市には、山や海といった「自然」、食物などが育てられる「農地」、人が集まり活動する「都市」という三つの要素がほどよいバランスで存在しており(まさに神戸がそう)、良い素材を見つけるのに適している。そして都市と自然の間、都市と農地の間には資源や素材を作る人、それを運ぶ人、そして使う人が自然と現れ、つながり、そこに経済循環が生まれていく。

 ローカルの中の大きな循環を意識し、その中で自分に何ができるかという役割を見つけることが大事であると主張したい。この循環の中でまだ誰もやっていないことを探し、チャレンジするべきではないだろうか。

 たとえば食べ物を扱ってきた人なら、農地と都市の間のどこかに入って食の仕事をしてはどうだろう。建築出身の人なら、自然と都市の間のどこかに身を置き、古い建物を再生させていってはどうか。編集系(物書き・絵描きを含む)の人は、この循環の中のどこかに身を置きつつ、情報発信をすることに長けているのだから、それを活かすべきだろう。職人的な仕事をしてきた人は、自然や街にある資源をどのように使って商品を生み出すかを工夫できるだろう。事務・企画系出身の人は、この循環のどこかに身を置いて事務局的な仕事ができるだろう。行政で働く人なら、この連鎖がスムーズに起こっていくことを支える、裏方として大切な仕事ができるだろう。

 今の仕事をやりながら、ダブルワーク的に独自の動きをしてもいいかもしれない。もちろん独立して、フリーランスとして新たにスタートしても良い。

 そして、僕らが住む神戸はローカルエコノミーを再構築するのに非常に適した街だと感じている。可能性を感じた人は是非この街に足を運んで、実際に街を回って体感してみてほしい。また、アドバイスするなら、少し下調べをして潜入してほしい。例えば、住宅街で開催されているミニライブに行ってみる。農村で開催されているイベントに参加してみる。マウンテンバイクを借りて地域の山に潜入してみる。ファーマーズマーケットに立ち寄ってみる。さらには、誰かローカルのキーになっているような人にアポイントをとっておけば、数珠つなぎで面白い活動をしている人々とつながれるかもしれない。

 ともあれ、小さくても良いので、現実的に計画を始めてみることが重要だ。身近な人々との顔の見える関係のもとで、ローカルの資源を用いたニッチなビジネスは、まだまだたくさん眠っているはず。

 スモールビジネスオーナーなどが連携する環境づくりを進めていきたいと考えて、今回「神戸から顔の見える経済をつくる会」を起ち上げた。また、僕たちは神戸にいるので神戸から始めるが、もちろん他の地域でも同じことを思っている方々がたくさんいることと推測する。そうした人たちとも連携しつつ、これからのローカルエコノミーをつくっていけたらと考えている。顔のみえる経済の連鎖をつくりましょう。


神戸から顔の見える経済をつくる会