ルールメイキング
ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論



おわりに

 風営法改正、そしてナイトタイムエコノミー政策の実現プロセスは、署名によって機運を盛り上げ、多くの共感を集め、多様なステークホルダーを巻き込んで進めてきたものであるが、このプロセスはありえないほど大変であった。もう一度風営法改正を最初からやることになったら、率直に言って相当悩む。当時は前代未聞のクラブ摘発の真っ只中であった。絶体絶命の危機的な状況だったからこそ火事場の馬鹿力が働き、法改正に向けて動けた。
 この火事場の馬鹿力をいかに再現可能なものにしていくかが、本書執筆の一番の動機である。風営法は氷山の一角であろう。本来政策アジェンダに載せ、解決すべきであるにもかかわらず放置されている問題は他にもたくさんあるに違いない。
 クライアントの主張を法的に構成し、裁判所に持ち込み解決していく。これはいわゆる通常の弁護士業務であるが、これと同様に、イノベーションを阻害している課題を法的に整理し、政治や行政の場に持ち込みルールをアップデートしていくことも弁護士の新しい役割なのではないか。
 風営法改正を通じて漠然と感じたこの感覚を、個人の経験の中に閉じずに言語化・概念化しようと試みたのが本書であるが、この言語化・概念化はすべて実際の活動に基づくものである。その意味で本書は、風営法改正、ナイトタイムエコノミー政策に関わった人々全員による成果物と言える。本来、関わった人々全員を本書で紹介すべきであるが、数百人に及ぶ関係者を紹介することは不可能であるため割愛せざるをえない。またPMI等での勉強会や、本書では紹介しきれなかったいくつかの勉強会でのディスカッション、特にマカイラ株式会社の工藤郁子さんからも本書を執筆するにあたって多くの示唆を得た。
 ナイトタイムエコノミー政策は現在進行形で日々新たな動きがある。2019年4月以降、新体制で夜間観光事業を推し進めていくための準備をしている。観光庁での議論を、さまざまな自治体、そして民間事業に展開し実装していくための体制構築である。安易に海外のモデルを輸入するのではなく、日本にマッチする実効的なしくみをつくるべきである。重要なのは、誰か1人が中心に立つことではなく、多様なステークホルダーを巻き込むマルチステークホルダー・プロセスであるということは本書で強調している通りである。こうした観点から、国、自治体、民間企業が連携して政策目標を実現するための事業スキームの構築についても、新たなチャレンジをしていきたい。
2019年3月
齋藤貴弘