歩いて読みとく地域デザイン
普通のまちの見方・活かし方

はじめに

 僕は2014年に「Walkin' About」というまちあるき企画を始めました。
 これは、参加者の方々にある街を90分間自由に歩いていただき、その後に再集合してそれぞれが得た見聞をシェアするというものです。
 そもそもなぜ、こんなスタイルのまちあるきを始めたのか、ですが…
 僕自身は、ガイドの方の説明を受けながら決められたコースを歩く一般的なスタイルのまちあるきが好きではありません。なぜかというと、情報を教わりながら歩くと、まちに対する感度が落ちてしまうからです。できれば何も教わらずに知らない街に繰り出し、自分なりの方法でまちと出会いたいのです。そんな風に考えるのは、僕だけではないはず。“案内しないまちあるき”というWalkin' Aboutのスタイルは、そういう発想から生まれました。
 僕らが訪ねてきたまちの多くは、各駅停車しか止まらず、特別なものは何もないと思われている場所です。そんな場所でも、行くと必ず何らかの発見があります。それは美味しそうなパン屋さんやいい感じの呑み屋、歴史的価値のありそうな建物や不思議な構造物だったりしますが、そのまちでの暮らしに想像力を働かせつつ観察を深めていくと、「このまちにはどんな歴史があったか」「今はどんな状況なのか」「将来このまちはどうなりそうか」といったことが見えてきます。
 Walkin' Aboutでは、これまでに関西の都心近郊を60ヶ所ほど巡ってきました。そうして参加者の気づきを共有し続けているうちに、僕らの“まちのリテラシー”はどんどん上がっていきました。
 リテラシーとは「読み書き能力」という意味ですが、ここでは「まちのここがこうなっているのはこういう理由からである」「ここを見ればまちの歴史や現状がわかる」といった、まちを深く知るために有効な基礎知識という意味で使っています。
 NHKの「ブラタモリ」を観ていると、ある土地の歴史的痕跡について、それぞれの土地の歴史に詳しい専門家の方々が問題を出し、博識なタモリさんが「お見事!」に正解を出すというパターンになっていますが、このことは、まちのリテラシーを高めていけば、その土地固有の歴史を知らなくても、目の前にある「?」の理由が推察できるようになる、ということを示しているように思います。
 これからご紹介しようとしているのは、この“まちのリテラシー”です。
 こうしたリテラシーを得れば、まちあるきは作り手の手口を読みとく探偵のような知的な営みに変わります。おそらくどんなまちに行っても、面白い切り口を見つけることができるでしょう。そしてさらに、今度はみずからが作り手になる、つまり新たにまちを創っていくための糸口を見つけることもできるはずです。
 そんなゴールを目指してこの本をお届けします。最後までよろしくお付き合いください。