エネルギー・ガバナンス
地域の政策・事業を支える社会的基盤

脱炭素社会へ加速する世界

 2015年11月30日~12月12日にかけてフランス・パリにて国連気候変更枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催された。COP21には196の国と地域が参加し、全会一致で「パリ協定」が採択された。その後アメリカや中国をはじめとする多くの国と地域が批准したことで、2016年11月4日にパリ協定は国際条約として発効した。世界は温室効果ガス「排出ゼロ」の未来に向けて、大きな一歩を踏み出した。この時、日本政府は批准手続きが遅れ11月4日の発効には間に合わず、11月8日に批准手続きを終えることになった。
 パリ協定には、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満とし、1.5℃に向けて努力することや、今世紀下半期のうちに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする中期目標を設定することが含まれている。これにより国際社会は今後温室効果ガスを排出しない社会=「脱炭素社会」を目指すことに合意したことになる。脱炭素社会の実現のためには、省エネとともに、必要なエネルギーをすべて太陽光、風力、水力、バイオマスなどの二酸化炭素(CO2)を出さない再生可能エネルギーで賄うことが必要になる。
 少し前まで再エネ100%は夢物語だと思われていた。しかし、ここ10年間で再エネを取り巻く環境は大きく変わった。世界中の国々で2050年までに再エネ100%の実現が可能という研究もある(WWF(2017)ほか)。
 国際環境NGOのThe Climate Groupが2014年に発足させた100%再エネによる事業活動を目的とするイニシアチブである「RE100」には、金融、IT、製造業を中心に世界の名だたる企業119社(2018年1月22日現在)が加盟している。「RE100」が2017年1月17日に発表した「2017 RE100 Annual Report」によれば、すでに100%目標に達した企業はMicrosoftやStarbucks、Swiss Postなどを含む18社に及ぶ。このほかAppleやGoogleでも100%達成間近となっている。
 またCOP21では、再エネへの転換を訴える「アフリカ再生可能エネルギーイニシアチブ(Africa Renewable Energy Initiative)」が発足し、アフリカおよび途上国における再エネの加速的普及を目指すことが発表された。COP22でも途上国48カ国が再エネ100%目標を改めて掲げた。
 こうした再エネ100%を目指す背景には、再エネの急速な成長とそれに伴うコストの低下と波及効果がある。2014年推計値では世界全体で再エネが最終エネルギー消費量に占める割合は19.2%となり、原子力発電(2.5%)を大きく上回る。発電量に占める割合では2015年には約24%になった。先進国では電力比率でドイツが30%以上、スペインが44%、デンマークが56%になり、なかにはパラグアイやコスタリカなど自給率が100%を超える国、地域も生まれ始めている。
 国だけでなく各国の州や地域レベルでの再エネ100%に向けた取り組みも広がっており、とりわけ欧州では国や地域単位で積極的な再エネ目標が掲げられるようになっている。ドイツでは153の地域が再エネ100%の地域づくりに取り組むことを宣言している。このほかハワイ州(2045年)やバンクーバー(2035年)、シドニー(2030年)などの都市部でも再エネ100%を掲げている。
 日本でも少しずつ再エネ100%を目指す流れが生まれている。都道府県では福島県が2040年に再エネ100%を、長野県では2017年度には再エネ発電設備容量で100%を達成する目標を立てている。市町村でも南相馬市が2030年頃にほぼ100%を、宝塚市が2050年に電力比率100%を掲げている。しかしながら日本全体で見れば、こうした地域はごく一部にとどまっている。
 どうすれば、日本でも欧州のように地域エネルギー政策を推進できるのか。本書は、その命題を解き明かすべく、国内外の多くの地域を調査し、得られた知見をまとめたものである。
 序章では、エネルギー・ガバナンスの捉え方と本書の目的を解説する。1章では日本の再エネ・省エネ政策と事業の変遷について整理し、2章では国内外の先進事例を紹介する。3章、4章ではエネルギー政策の担い手とその役割について検討する。5章では自治体政策の質を担保するしくみについて、6章、7章では知的・人的基盤を支える国内外の中間支援組織について紹介する。そして終章では地域エネルギー・ガバナンスを構築するための課題について整理する。
 本書が、専門家の方だけでなく、地域エネルギー政策を担う自治体職員やNPO、事業者の方々の取り組みを後押しするものとなることを筆者一同願うものである。