まちのゲストハウス考


はじめに

 今この本を手に取った皆さんは、ゲストハウスのことをどれくらいご存じだろうか。ゲストハウスが好きで毎週末のように各地を泊り歩いている人や一度くらいは利用したことがある、という人ももちろんいると思うが、おそらく本書を手に取った多くの人は「話には聞くけれど実際に利用したことはない」のではないだろうか。旅行は好きだけどまだゲストハウスを利用したことがないという人は、ぜひ頁をめくってみてほしい。

 本書では9人のゲストハウス運営者たちに、それぞれの宿を始めたきっかけ、試行錯誤し続ける運営の日々を綴ってもらった。商店街の一角や山あいの村で営まれる彼らの宿は、不足するインバウンド需要を受け入れるハコでも、空きスペースを活用し効率よく利益をあげることを優先したビジネスでもない。まちに根を下ろし、独自の視点でその地域と関わりをもちながら丁寧に宿をつくっている。今そうしたゲストハウスが全国にたくさん生まれている。宿を紹介するだけではこぼれてしまう、彼らの考え方や宿の日常を知ることこそ「まちのゲストハウス」を理解してもらうことになるのではないかと思った。

 本書の構成は、そうした多面的な面白さをできるだけ正確に伝えるため、3章から成り立っている。1章ではいくつかのゲストハウスが生まれる“前夜”の話を、2章では各宿の運営者たちが綴る9編の日常を、そして3章では社会背景を踏まえた空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性を探る論考をまとめた。

 それぞれ気になるところから、自由に読み進めてほしい。いずれにしてもこの本を読み終えたら、きっとゲストハウスに泊まってみたくなるだろう。

2017年2月 片岡 八重子