まちのゲストハウス考


おわりに

 本書の企画は、今からちょうど一年前の厳寒の時期に始まった。雪がしんしんと降り積もる高岡の町家に始まり、岡山、尾道など、本書にも登場するおなじみの場所で、執筆者やスタッフの皆さんと話すなか、少しずつ企画は煮詰まっていった。そこでは、東京や京都・大阪など、外国人に人気の都市で過熱する民泊現象や、リノベーションの文脈で語られるゲストハウスではなく、小さなローカル都市で、運営者たちが一人称で語る宿とまちの関係が映った。若干矛盾と自虐が混じるが、専門職や学者の第三者的な視点ではなく、場所を運営する当事者自身が日々接しているまちや出来事を組み立て、描き出すと、どのような結晶が紡ぎ出されていくのかを伝えたい、それが本書の出発点である。

 さて、本書の編者である私と片岡さんは、豊田雅子さん率いるNPO尾道空き家再生プロジェクトの役員であり、もうひとりの建築士、渡邉義孝さんとともに、通称「建築チーム」を担っている。豊田さんが次々と持ち込んでくる、想像を超える難度の空き家に対して、チームは何とか前向きに環境を捉え直してきた。毎度の無理難題に頭を抱えながらも、スタッフや職人、移住者、サポーターたちとの絶妙なつながりのなかで、建物再生のプロセスが動き始める。こうした始まりと葛藤をいくつも経たのちに、ゲストハウスという未知の世界に遭遇したのである。

 ゲストハウスという宿の形態は、年々認知度を高めているが、自分が、そして自分たちが、そのまちで初めて宿をおこし、運営するということは並大抵のことではない。周辺にも大きな負荷と波紋を起こすことになるということを、本書の書き手たちは各地で経験してきた。本書が、そうした負荷と波紋のリアリティをささやかながら伝え、それぞれのまちで、日々の暮らしの望みや喜びに少しでも接続していくことを願っている。

 本書の制作に当たっては、多忙な日々の運営のなかで、細かいリクエストに応えながら、熱いエネルギーを原稿に注いでくださった10人の書き手たちと、その書き手を支える多くのスタッフ・サポーターの皆様に感謝したい。また、そのまちのゲストハウスをとりまく環境と風景に敬意を表したい。

 最後に、本書の企画を提案してくださり、書くことに不慣れな我々書き手たちを的確にゴールへとアシストしてくださった、学芸出版社の岩切江津子さんの飽くなき情熱と粘りに感謝を申し上げて、筆を置きたい。

2017年2月  真野洋介