まちづくりの仕事ガイドブック

まちの未来をつくる63の働き方

まえがき
 まちづくりという言葉は戦後に生まれた若い言葉であるが、法律や制度の中で最初に定義されて使われ始めた言葉ではない。「まち」と「つくる」という2つの簡単な言葉の組み合わせは、簡単であるがゆえに、人々の口から口へと次々と渡り、今ではあちこちで使われる言葉になった。
 まちの人たちとともに特産物を掘り起こして小さなビジネスを立ち上げるのも、土地の所有者とともにまちに必要なオフィスビルを開発するのもまちづくり、朝食を食べられない子どもたちに食事を提供するのも、災害後に区画整理事業を使って災害に強いまちとして復興するのもまちづくりである。取り組むべき課題も、それに対する現場の取り組みも、尽きることなく増え続けている。
 この本には、こうしたまちづくりの広がりの中で生まれてきた63の仕事が収められている。誕生して間もない仕事も多くある。まちづくりは若い言葉であり、専門職としてスタイルや方法が確立された仕事だけでなく、さまざまな課題に柔らかく創造的に取り組む仕事を多く取り上げた。
 ここでは63の仕事を5つのカテゴリーに分けて紹介している。「コミュニティとともにプロジェクトを起こす」では、コミュニティという最前線の中で取り組まれている14の仕事を、「まちの設計・デザイン」では、まちづくりに形を与える12の仕事を紹介する。「土地・建物を動かすビジネス」では、土地や建物を整え、流通させていく11の仕事を、「まちづくりを支える調査・計画」では、まちの課題の分析や計画立案を支える12の仕事を、「制度と支援のしくみをつくる」では、まちづくりそのものを支える環境をつくる14の仕事を紹介する。5つのカテゴリーは厳密なものではなく、これらをあくまでもガイドとして使うことにより、気になる仕事を見つけてほしい。
 それぞれのカテゴリーの中は3つに分かれている。「パイオニア」はそのカテゴリーの仕事や、そのカテゴリーでの経験をもとに新しい仕事を切り開いてきた開拓者へのインタビュー記事である。個人に焦点を当てた記事であり、読者は自身のキャリアを考える参考にしてほしい。
 それに続くのが、それぞれの仕事の概要を見開きで紹介する仕事ガイドであり、それぞれの現場の第一線で活躍している方に執筆をお願いした。気になるところを開いて読むだけでなく、あわせて前後のページを読むことにより、さまざまな仕事のヒントを得てほしい。
 「ベンチャー」は生まれたばかりの新しい仕事を取り上げている。一般解ではなく、固有の組織に焦点を当てた記事であり、読者には新しい仕事が生まれて成長するダイナミズムを感じてほしい。
 まちづくりの仕事をする、ということは、自分の人生の持ち時間をまちのために使い、その対価で自分の人生を組み立てる、つまり、自分とまちの間で経済をつくるということである。それぞれの人が小さな経済をつくることが、まちの経済の仕組みのバランス回復につながり、そこに、ほとんどの日本のまちがまだつくりえていない、持続可能な経済が現れてくるはずである。
 この本が、読者がまちの経済の主体となる第一歩を踏み出すきっかけになることを期待している。

2016年8月 饗庭伸