ドイツ・縮小時代の都市デザイン


はじめに


 日本の人口は2004年に1億2778万人(10月1日時点)を記録した後、翌年の同日に戦後、初めて1万9千人ほど減少する。2006年、2007年は13万人ずつ、それぞれ前年度より増加し2008年10月1日時点で1億2808万人を記録。これが、おそらく日本の人口の最高記録であろう。その後、2009年には5万2千人減少、2010年には多少盛り返すが、2011年には前年度に比べて26万人と大幅に減少。さらに2012年には28万人が減少する。2011年以降は、外国人の減少の影響もあるが、人口減少の主要因は自然減であり、いよいよ高齢化による人口減少の時代へと我が国は突入した。
 この人口減少という現象は、しかし、日本特有のものでは決してないし、日本が先行しているわけでもない。人口減少は、いわゆる「先進国」と呼ばれている都市・地域において普遍的に見られる現象である。とくに旧東ドイツは、社会体制の変革によって、大幅な人口減少を1990年代に体験した。
 本書は、この急激な人口縮小を体験した旧東ドイツの諸都市が、どのようにその現象に対して対策を展開してきたかを紹介するものである。一部の例外的な都市を除いて、ほとんどの都市・地域が人口減少に直面した旧東ドイツであるが、ある都市は積極果敢に、またある都市は茫然自失になりながら連邦政府の政策に受動的に従い、その縮小現象へ対応しようとしている。その自治体ごとの多様な取り組みは、縮小への対策のむずかしさを示唆すると
 同時に、その対策の効果の違いを見ることで、ある程度、有効な縮小対策が展望できる。本書はそのような考えから筆者が事例調査をして得られた情報・知見をもとにドイツの縮小対策の整理を試みたものである。

本書の構成

 本書は、まず日本の都市の人口縮小の実態を整理する。そして、旧東ドイツの急激なる人口縮小の状況を整理し、その政策なども概観する。次に、ドイツの縮小都市・地域を、旧東ドイツ側から7都市、そして旧西ドイツ側から1地域、合計八つ紹介する。7都市はアイゼンヒュッテンシュタット(ブランデンブルク州)、ライネフェルデ(チューリンゲン州)、コットブス(ブランデンブルク州)、デッサウ(ザクセン・アンハルト州)、シュヴェリーン(メクレンブルク・フォアポンメルン州)、ホイヤスヴェルダ(ザクセン州)、そしてライプツィヒ(ザクセン州)である。ベルリン州を除く、すべての州の都市を事例として取り上げることで、州による違いが見えるようにした。また、ライネフェルデのような優れた成果を出した事例だけでなく、ホイヤスヴェルダのようにいまだに問題を抱えている事例をも取り上げることで、なるべく等身大の旧東ドイツが浮き彫りになるように試みた。旧西ドイツの事例としてはルール地方を取り上げた。
 旧東ドイツの人口縮小は社会体制の変革が大きな契機となって始まったが、ルール地方は産業転換が要因となっている。ただし、要因は違っていても、縮小に対する都市計画的なアプローチは類似している。それは、将来を冷静に見据えることで、問題から目を背けないというプラクティカルな姿勢である。そして、これらの事例から得られた情報・知見を踏まえて、縮小都市の課題を提示した。この課題は、日本の縮小都市においても共振するものが多いと推測される。最後に、ドイツから日本が学ぶ縮小の都市デザインとして、筆者なりの提言を幾つか示した。

日本の縮小都市が行うべきこと

 日本では人口縮小という「不都合な真実」の前に、慌てふためいているように見える。ある団体が発表した調査結果で、東京区の豊島区は消滅都市の候補にあげられた。そもそも、豊島区が消滅すると予測した時点(豊島区が消滅するのであれば、その前にほとんどの関東圏の都市が「消滅」している)で、その調査がいい加減であると判断すれば良いにもかかわらず、豊島区は慌てて縮小対策に取り組み始めた。人口の縮小はさまざまな課題をこれから我々に提示してくるが、そのような状況に晒された旧東ドイツなどの縮小都市がどのように対応したかを知ることで、今後の日本の都市が縮小現象の対策を講じるうえで参考になる点があるのではないだろうか。
 慌てふためいてパニックに陥ることこそが愚かであるし、傷跡を広げることに繋がる。成長や豊かさという意味を再考し、将来のあるべき都市像を再検討する良い機会を我々は与えられているのかもしれない。ドイツの縮小政策の取り組みから学ぶこととは、しっかりと縮小を見据えた将来都市計画を検討し、関係者とコミュニケーションを取り、一丸となって取り組むことである。人口縮小は危機である。しかし、それをしっかりと危機だと認識し、その危機を乗り切るために、関係者が一枚岩になり、エネルギーを集中させること。すべてが成果を出しているわけではないが、ドイツの縮小都市の取り組みは、そのようなメッセージを後発の人口縮小国家である日本に発しているように思える。
 人口減少は日本がこれから直面していくむずかしい課題である。その課題を超克するためにも、ここであげたドイツの事例が、少しでも参考になれば、筆者としてはこれ以上の喜びはない。
服部圭郎