ドイツ・縮小時代の都市デザイン


おわりに


 ドイツが人口減少する都市・地域の問題に都市計画的に取り組むという話を筆者が初めて聞いたのは2002年のドイツでの調査研究においてであった。振り返れば、ちょうどシュタットウンバウ・オスト・プログラムを導入する年であり、取材をしたドイツ連邦政府の役人が、熱を込めて説明していた背景も今なら分かるのだが、当時は、ドイツはさすが違うなと感心するだけであった。
 ちょうど当時ベルリン工科大学で都市計画を教えていたドイツ人の友人であるフランク・ルースト氏(現在はカッセル大学教授)にこの話をすると、「ドイツの都市計画がそれほど立派かというと疑わしいが、縮小しているという都合の悪い現実をしっかりと直視し、今後も縮小し続けることを客観的に予測し、縮小する都市の計画を策定しようとする姿勢と覚悟。これはドイツの都市計画の評価できる所である」と述べたことも、私の好奇心を刺激し、以後、ドイツの縮小都市を断続的に調査することになる。縮小現象にどのようにドイツが都市計画的にアプローチするかを知ることで、その都市計画のエッセンスが理解できるのではないか、と思われたからである。そして、同様に縮小問題を抱えることになる日本においても、ドイツの縮小に対する考え方、アプローチ、そしてその経験は参考になると考えたからである。
 その後、一般財団法人計量計画研究所が主催したシンポジウムでルール大学のウタ・ホーン教授の講演を聞く機会があり、すぐに図々しくも彼女を尋ね、いろいろと旧東ドイツの都市の縮小をめぐる状況を教えてもらい、彼女の紹介でアイゼンヒュッテンシュタット市の職員フランク・ホーヴェスト氏を訪れる。彼はちょうど、アイゼンヒュッテンシュタット市の都市計画で博士論文を執筆中であり、彼を通じて私は多くを学ばせてもらった。
 そのようななか、大林財団から研究助成金をいただく機会にも恵まれ、ロストック、コットブスなどの縮小都市の取材を行う機会を得る。その後、縮小都市研究所の若き所長であるフィリップ・オスワルト氏とも知り合うことができた。
 そうこうするうちに、2009年4月から2010年3月までは前述した友人のフランク・ルースト氏がドルトムント工科大学に在籍していたこともあり、そこに客員教授で在籍する機会を得た。この期間を利用して、ずいぶんとドイツの縮小都市を廻った。
 本書は、前述したルースト教授の言葉を発端に14年近くもの間、こまごまと収集し、または発表してきたドイツの縮小政策がらみの情報を都市計画的見地からまとめたものである。はたして、それが縮小する日本の都市の参考になるかどうかの評価は、読者に委ねるしかないが、「消滅する」と言われてアタフタとする前に、ドイツが通った道を自らの立場に置き換えてシミュレートすることによって、より客観的に状況を捉え、その将来も冷静に展望することができるのではないだろうか。ドイツの縮小都市の「消滅するかもしれない」というプレッシャーは、日本のそれとは比べものにならないほど切迫感をともなっていた。それでも、しっかりと対応できた都市は、人口減少が増加に変転し始めてさえいる。
 この本を読んでいただいた読者にはたいへん申し訳ないが、調査内容には必ずしも満足できていない。事実誤認もあるかもしれない。事実誤認等に、もし、気づかれたらご教示いただければたいへん有り難い。それらの間違いはすべて筆者が責任を負うものである。また、本書を執筆するうえでの情報収集において、東京大学都市工学専攻の大学院生福田崚君には多くを手伝ってもらった。彼の優れた情報収集能力によってずいぶんと助けられた。
 本書で、私の縮小都市の研究が終わったわけではなく、あくまで通過点である。今後もご指導いただければ幸いである。本書が人口減少に悩む日本の都市(地域)の人々に少しでも参考になれば、筆者としては望外の喜びである。
 末筆ではあるが、学芸出版社の前田裕資さんと中木保代さんには心からの御礼を述べたい。本書の企画を最初に学芸出版社に持ち込んだのは2008年である。よくぞ、諦めずに付き合ってくれたものだと改めて感謝する。前田さんの我慢強さと寛容さ、そして中木さんの辛抱がなければ、この本は日の目を見なかったであろう。
 
2016年2月5日
東京都目黒区八雲の自宅にて