図説 わかる土質力学


 土質力学は、土木工学の背骨を成す学問であり、他にも建築・資源工学・地学・農学・都市衛生工学など多くの分野で有用な知識を供するものです。また、コンクリート工学とならび、コンサルタントや総合請負業者(ゼネコン)など建設業界が「学生に高等教育において特によく学んできてほしい学問分野」と目するものでもあります。その一方で、水理学や流体力学のように理論で説明できる部分と、必ずしもそうでない経験的な部分が混在した特色ある学問であり、それが故に習得に苦労する学生が多いようです。本書は、大学教員としては比較的若年にあたり、普段から学生の率直な声に接する機会の多い著者らが、「こういった学生がここがわからないと言っていた」と経験を分かち合い、議論のもとに生まれたものです。執筆にあたっては、実際に語りかけるようなトーンとともに、現象のイメージをもったうえで理解して頂くために、写真や図解を可能な限り取り入れ、初学者の直感に訴える努力をしました。

 土質力学とその応用である地盤工学がカバーする内容の習得には時間がかかります。大学や高専の教程においては、土質力学はその基本的な部分だけでも二つの学期に分けて土質力学I・IIなどとして講義が設けられることが多いようです。本書はこのような状況に鑑みて、15週×2学期の講義シリーズで用いられることを想定しています。このようなスケジュールでも余裕を持って学べるよう、全24講に分けて構成されており、1週(90分1コマや45分2コマ程度)で1講を習得できるよう、1講あたり8ページ前後におさえるように配慮されています。(著者ら自身がそうしなかったように)まじめに予習をして講義に臨む大学生は実際には多くはないでしょうが、本書のレベルで8ページ程度でしたら、ソファで寝そべって20分も読めば、細部はともかく話の流れは見えるはずです。そのような週課とともに習得を進めるのも効果的と思います。

 その他の工夫として、文中・図中で物理量が現れる際には、数値のみならず記号に対しても、かなりの頻度で単位を併記しています。たとえば圧力pや応力σには[kN/m2]を併記しました。もちろん、[N/m2]や[MN/m2]、[kgf/m2]といった単位を用いることもできるわけですが、SI単位系の中でも一般的によく用いられる形を選びました。扱っている物理量の意味を確認しやすくするほか、単位付記の重要性をよく認識してもらうのが目的であり、これらをよく理解している人にはややうるさいくらい(?)に書き込みました。エンジニアは、単位の間違いだけは決して犯してはなりません。細かいことと思わないでください。

 土質力学や地盤工学という広がりをもった学問分野は、基本的な部分だけでも200ページ程度の本書で完全に網羅できるようなものではありません。特に、土質力学は理論と土質試験の習得が両輪となって初めて真の理解が進むものであり、後者の方法や図説については、本書には収まりきっていません。そこで、土質試験については公益社団法人地盤工学会の「土質試験 基本と手引き」等のハンドブックを参照する形をとっています。この本は多くの教育機関において採用されており、本書とぜひ同時に入手されることををおすすめします。

 本書は奥の深い土質力学への入り口となるものです。本書を通して土や地盤への興味とともに、社会の中での地盤技術者や研究者の役割や責務を感じて頂ければ幸甚です。その戸を敲く読者諸兄へのエールを、著者らの自奮自励も込めて送りたいと思います。

 なお、本書の準備にあたり、北海道大学の田中洋行教授・磯部公一博士、苫小牧高等工業専門学校の所哲也博士には非常に有益なご助言を賜りました。企画・編集作業に御尽力くださった学芸出版社の岩切江津子様と合わせて、刊行に御協力頂いた全ての方々に深甚なる謝意を表します。

2015年11月
著者一同