コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする



今、なぜコミュニティパワーか


 今、「ご当地電力」「ご当地エネルギー」が注目を集めています。
 2013年には「ご当地電力」が流行語大賞の候補にノミネートされ、2014年6月には会津電力株式会社の佐藤彌右衛門さんが、ご当地電力の大先輩であるドイツのシェーナウ電力会社から「シェーナウ電力革命児賞」を受賞しました。日本のご当地エネルギーも、すでに世界的に知られるようになったのです。

3・11福島第一原発事故に直面して
 このようにご当地エネルギーが注目を集めるきっかけとなったのは、何と言っても3・11福島第一原発事故でしょう。この原発事故は、すべての日本人、そして世界中に大変な衝撃を与えました。首都圏では計画停電が実施され、次々にメルトダウンや水素爆発が続く原発事故の連鎖を、危機的な緊張感と先の見えない不安のもとで日本中が固唾を飲んで注視しました。その後、東京電力や国の混乱したお粗末な対応に呆れつつも、1カ月後には、事故収束とはほど遠いものの、少なくとも危機の連鎖は脱することができました。
 この3・11の危機に直面することで、ある意味ではすべての日本人が原発や電力、エネルギーのことを真正面から考える、強烈な契機になりました。
 実際に、先述の「会津電力株式会社」は、同年7月ごろに放射能から避難してきた福島県の浜通り(太平洋岸の双葉郡や相馬郡飯舘村など)や中通り(福島市や郡山市など中央部)の人たちが、放射能汚染が比較的に軽微だった会津に集まり、「福島が自然エネルギーで自立する『現代の自由民権運動』を立ち上げる」と話しあったことが会社設立のきっかけとなりました。
 また小田原市で生まれた「ほうとくエネルギー株式会社」は、計画停電や福島原発事故の影響からか普段なら人で賑わう週末でも観光客の姿が消え去ったことや、地元名産の足柄茶からセシウムが検出されたことに危機感を感じた加藤憲一市長が、事故直後の4月に環境エネルギー政策研究(ISEP)を訪ねてこられ、所長の飯田哲也に小田原市のエネルギー自立の助言を求めたことが出発点となっています。
 3・11の危機的な状況が徐々に収まるにつれて、会津や小田原だけでなく、原発と電力、エネルギーのことをほぼすべての日本人が真正面から向きあって考えるようになったはずです。これが今、日本中でご当地電力・ご当地エネルギーが続々と誕生している「豊かな土壌」が築かれるきっかけとなったのではないでしょうか。

固定価格買取制度(FIT)の導入
 折しも、自然エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)が導入されたことも、ご当地エネルギーの隆盛を下支えしています。自然エネルギーの固定価格買取制度とは自然エネルギーにより発電された電力を国が定める固定価格で一定期間にわたり電力会社が買い取ることを義務づけた制度で、これも3・11の「不幸中の幸い」が後押しをしたと言えます。
 民主党の公約であった自然エネルギーの固定価格買取制度は、地震発生直前の2011年3月11日の午前中に、国会に上程する閣議決定が行われました。もしこの順序が逆だったらこの法案(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)はなかったかもしれないと思うと、「歴史の偶然」を思わずにいられません。その後、菅直人首相(当時)がこの法案の可決を辞任の条件の一つに要求したことで、同年8月26日に参議院での可決を経て、無事に法制化されました。ちなみに、所長の飯田哲也がこの法案の素案を作成したのが1998年秋のことでしたから、実に13年越しの成立でした。
 デンマークやドイツで立証されていることですが、この固定価格買取制度はご当地エネルギーの立ち上げに大きく貢献しています。それまでの制度(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法、通称RPS)では、経験や信用力のある大手の事業会社以外による事業の成立は困難だったからです。

「エネルギー植民地」を問い直す
 エネルギーと地域とのこれまでの関係は、いわば「植民地」と同じ構図でした。
 原発に象徴される電源開発は、文字どおり地域独占の電力会社による「植民地」となってきました。それが仮に自然エネルギーであっても、東京の開発ディベロッパーや海外の投資ファンドによるメガソーラー開発なら、地域コミュニティの頭越しで地域資源を収奪する「植民地」型の開発と本質的には変わりません。
 私たちが普段使う電気や灯油、ガスもほぼすべて地域外・国外から買われており、そのために支払っているお金も地域から流れ出ているのが現状です。長野県の試算では、その失われているお金はなんと地域経済の5%にものぼります。これを地域の自然エネルギーや断熱住宅などの省エネルギー投資に置き換えられれば、地域の経済や雇用を生みだすことができ、地域の自立性を高めることができます。
 「ご当地電力」「ご当地エネルギー」は、海外では「コミュニティパワー」と呼ばれています。世界風力エネルギー協会(WWEA:World Wind Energy Association)が2010年に公表したところによれば、コミュニティパワーとは、@地域コミュニティがオーナーシップを持ち、A地域コミュニティの主体的かつ幅広い参加のもとで、B多様なその便益が地域コミュニティに戻っていくような地域の自然エネルギー開発のあり方と定義し、地域コミュニティが「当事者」になることを強調しています。

地域を考え、地域で行動する
 今、全世界で起きているこうした地域からのコミュニティパワーの急拡大が、グローバルに大きな変化を引き起こしつつあります。ちょうどインターネットの登場前と登場後に起きたような社会の構造変化が起きつつあるのです。これこそが「人類史第四の革命」と呼ばれる大変化の原動力となっています。
 かつて「地球規模で考え、地域で行動しよう」というスローガンがありました。今や「地域を考え、地域で行動する」ことが積み重なって、地球規模の大きな変化を起こす時代となったのです。
 この本を手にした皆さんも、ぜひ自分たちの地域から「第一歩」を始めてみませんか。こうしたコミュニティパワーに10年以上前から実践的に取り組み、数々の市民風車や市民ファンドを生みだしてきたISEPが積み重ねてきた具体的な進め方やノウハウを一から解説します。
 この本を片手に、あなたの地域でも今日からご当地エネルギーをきっと生みだすことができるはずです。

飯田哲也