NPOのためのマーケティング講座


まえがき

 1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立・施行されてから早15年。今ではテレビや新聞、インターネットなどでNPOの活動を見たり聞いたりしない日はないくらい、NPOの存在は日本社会に浸透してきたといえるでしょう。実際に、NPOの認証数も2014年4月30日現在で4万9042法人となり、学生の就職先や社会人の転職先としてNPOが候補に挙げられたり、行政とNPOとの協働や企業によるCSRとNPOの連携が一般的になるなど、NPOの存在は私たちの生活の中で身近なものになってきました。
 特に近年では、2010年、民主党政権による「新しい公共」とその派生事業では、バラマキという批判はあれど、予算額87.5億円が投じられることになりました。また、2011年6月には新寄付税制と改正NPO法も成立。寄付税制については、欧米諸国と比較しても遜色ない税制優遇が実現するなど、NPOの活動を支える法制度面は充実したものになっています。
 その一方で、社会課題解決の担い手として期待されたNPO自身はどのように変わってきたのでしょうか? 法制度は整備されたものの、肝心のNPOに社会課題を解決できるような力はついてきているのでしょうか?
 個々のNPOに目を向けると、解決するべき社会課題の実態把握、明確な目的や目標の設定、課題解決に向けた事業の企画立案、事業展開のマイルストーンの策定、実施した事業の効果測定と改善サイクルの確立など、組織運営に必要な基本的実務が実践できていない状況が多々見られます。NPOの活動自体は尊く、社会にとって悪いものではないため、誰からもこういう状況を咎められることのないままNPOセクターは存在し続けてきたように感じます。見方を変えれば、NPO自ら成長の機会を閉ざしてきたということです。
 結果としてこの15年間、もちろんNPOだけの責任ではありませんが、メディアでは毎日のように新たな社会課題が報じられ、社会課題は解決に向かうどころかこれまで以上に増加していると感じている人も多くいるのではないでしょうか。
 社会課題の解決において、NPOを取り巻く法制度の整備は必要条件であって十分条件ではありません。活動の主体であるNPOが真に社会を変革するだけの力を身につけない限り、社会の課題は未解決のまま残り続けていくどころか、今後ますます増えていくことになります。NPOは社会から期待されている成果を出さないと社会的な信頼を失いかねない状況にあるといっても過言ではないでしょう。
 本書は、NPOが身につけるべき力の1つである「マーケティング」について取り上げています。企業セクターで実践されているマーケティングの手法や事例を踏まえ、社会変革の担い手であるNPOが知識として身に付け、実行するべきマーケティングの基本的な考え方や実務について、具体的なNPOの事例を紹介しながら分かりやすく解説しています。
 主たる対象となる読者はNPOやNGOに関わる方々ですが、社会起業家やソーシャル・エンタープライズ、地域の市民活動センターやNPOサポートセンターなどの中間支援組織、助成財団や行政関係者など広く非営利セクターに従事する方々に加え、NPOでのマーケティングに興味のある企業セクターの方々も対象とした内容となっています。

 社会を変えるために、自らを変える。

 社会を変えるためには、まず、その担い手であるNPO自身が変わらなければなりません。本書が、社会変革を目指すNPOをはじめ、広く非営利セクターで活躍する方々の一助になれば幸いです。