美味しい田舎のつくりかた
地域の味が人をつなぎ、小さな経済を耕す


はじめに


 今、食を取り巻く状況は確実に変化しつつある。大量に生産した食材を市場に流す、あるいは動員目的のイベントで一過性の料理を出すといったやり方に頼っていた時代は終わりを迎え、食の現場では新たなムーブメントがすでに生まれている。
 地元の食材を活かした加工品や料理を生みだすことで、地域内に新たなつながりをもたらし、雇用や起業を促進するレストランやカフェ。
 少量多品種栽培で育てた農産物を、自家製レシピを添えて消費者に直接宅配する農家。
 消費者の声を聞き、生産者のものづくりを支援する、新しい流通の担い手。
 地元の特産品を厳選し、生産と消費をつなぐイベントを組み合わせて販売する地域発信型のセレクトショップ。
 農家・漁師が直接持ち込む鮮度の高い食材が人気の道の駅。
 地域の文化や歴史を感じられる手料理でもてなす民宿。
 そこにしかない、そこだけの味を追求したこれらの取り組みは、多くの消費者やバイヤー、料理人たちの注目を集め、確実に売り上げを伸ばしている。いずれも、地元にある素材をうまく活用し、料理法や食べ方、見せ方や売り方、そして人材育成までを含めて食を総合的にデザインすることで成功を収めていると言えよう。
 本書に登場するキーマンたちは、農家、料理人、流通業、元サラリーマン、元主婦、行政職員など、経歴はさまざまだが、一念発起して食と地域づくりに関わり、自ら発信している人たちばかりだ。
 彼らに共通するのは、流通が拡大し市場が画一化していくなかで失われていた地域性を改めて現場で再確認し、そこに新たな視点を取り込んで、自分たちにとっても、そして地域にとっても継続できる事業を築いていることである。彼らは自らの仕事を通して、人と人がつながる仕組み、人と地域が関わる仕組みを提示している。
 彼らが生みだすものは、単に美味しいだけではない。地域の個性、実直な技、健やかなホスピタリティといった要素が絡みあうことで「五感に訴える味」が生み出され、人々の共感を呼ぶのだ。
 人口減少と高齢化が進行し、市場も縮小していかざるをえない状況の中で、生産・消費のあり方は変化を迫られている。モノの流通、人の移動がグローバル化する社会では、その地域でしか生み出せないものに価値を見出す動きはますます加速するだろう。
 ローカリゼーションの徹底こそがインターナショナルに通用する力を持つ時代が始まろうとしている。
 本書に登場する、田舎の豊かさを仕事にする起業家たちの挑戦は、日本の未来を明るく照らす指針になると確信している。