建築・交通・まちづくりをつなぐ
共生のユニバーサルデザイン




編集後記(読者へのメッセージ)


“一貫して当事者の立場に根ざし志高く”
 「福祉のまちづくり」研究は、まちづくり系の学問を構成する一分野として発展してきました。例えば、土木学会、建築学会、人間工学会等の個別学会の一分野として研究が進められてきましたが、現場における発展とともに、分野別の研究では追いつかなくなってきました。それぞれの分野が相互に連携し、障害者や高齢者等の自立と社会参加を目ざす融合的体系が必要になってきたのです。
 その観点から見ると本書で扱った分野は十分と言えないかもしれません。特に「心のバリアフリー」等、ソフト面のアプローチはもっと充実させたかったテーマです。読者の方々は本書の学習後さらに幅広い分野への関心をもたれることを期待したいものです。
 福祉のまちづくり、ユニバーサルデザインは一貫して当事者の立場に根ざすことを心がけるものです。目的はあくまで障害者・高齢者当事者の自立と社会参加にあります。研究のための研究になってはいけない。「志」をたてて学ぶ福祉系・まちづくり系・人間工学系の学生諸君、行政・実務の皆さんが本書を越えて新しい福祉社会をつくられんことを願っています。
三星昭宏


“みんなで参加のまちづくり”
 福祉のまちづくり、バリアフリー、ユニバーサルデザインのまちづくりの実践は決して難しいものではありません。誰もが参加でき、楽しめる、魅力あるまちづくり活動の1つです。年齢、性別、国籍、職種を問わず誰もが分け隔てなく都市やまちづくりについて自分の意見を述べ合うことができる活動であり、まちや他者の新たな発見につながる活動です。同時に自分が住んでいるまちをさらに「好きになる」きっかけが生まれます。
 21世紀は人口減少の時代です。高齢者中心のまちやコミュニティに危惧を抱いていませんか。確かに過疎農山村のような地域では人口に対する高齢者の割合が半数以上になってくるでしょう。しかし、そのような地域社会であっても、住民によるさまざまな生活の知恵により、新たな支え合いが生まれています。高齢者の比率が高いことが問題ではなく、若い世代の元気がなくなることが一番の問題です。一歩勇気を出して、バリアフリー、ユニバーサルデザインの活動に挑戦してみませんか。不安感が達成感に変わるでしょう。
橋儀平


“社会的技術としての福祉のまちづくり”
 技術は社会のために役立たなければならない。戦争のためでなく平和な社会生活のために利用されるべきです。 新技術や新製品は、それを必要とする人びとには大いなる価値をもたらします。しかし、その価値の客観的計測や、多様な人びとの間での価値観の共有化には困難が伴います。高コストをかけた高度な性能・機能が本当に必要かどうかは十分に検討されるべきでしょう。
 そのなかで「社会的技術」(人類・社会のためにさまざまな要素技術を組み合わせ・統合し高度化を図るもの)の発展が求められています。福祉のまちづくりはこの典型です。その際に最適な技術と判断するのは技術者ではなく利用者であること,意見が分かれた時には最適解ではなく、各々が歩み寄った妥協策が社会的な最善となりうることに留意すべきです。
 さまざまな立場、分野の読者みなさんが、学んだり体得した技術分野の延長として、福祉のまちづくり分野が存在していることを知り、強い関心をもち続けられることを期待しています。
磯部友彦