縁あって「インクルーシブデザイン」という本の書評を書くことになった。僕自身がデザイナーなので、声をかけてくれた方は僕のことをインクルーシブデザイナーだと思ってくれたのかもしれない。

 まず、本書のタイトルであるインクルーシブデザインについて簡単に説明すると「ユーザーの行動や状況を許容したデザイン」という意味の、イギリスで登場したパッシブ(受容的)なデザインの概念のことだ。

 全ての優れたデザインは適切な受容性を持っている。つまり少なからずインクルーシブデザインである。だから何がインクルーシブデザインで、何がそうではないのかの定義はあまり重要ではない。一方で、デザインは意識しないと「作り手発想」や「専門家思想」に陥り、受容的であることを忘れてしまう。そんな罠に陥ると、とたんにイノベーションは難しくなるのだ。この罠を回避するために、僕自身も普段の仕事で気を配る「作法」があるのだが、本書はそんな作法の本のように感じられた。

 本書には、複数人の証言を通して、物のデザインから出来事のデザインまで多様な実例が登場する。その実例を読み込んでいくと、著者の各人が考える受容的デザインイノベーションの作法(プロセスとルール)が書かれている。全体を通してプロセスが統合されているとは言えないが、例えば「多様なユーザーとデザインすること」や「ユーザーの参画性を上げるための工夫」や「問いをデザインすること」など、各人が見出した作法には、僕自身も実感として必要を強く感じるものが多くあった。

 多様な状況の受容性とデザインの出会いから、領域を超えるようなクリエイティブが生まれることがある。本書に登場する現代のデザイナーたちのように、社会に機能するデザインはどうあるべきかを問う活動には共感を覚える。デザインと社会の新しい接点を見出すことこそ、新しいデザインを生み出すことにほかならないのだから。