まちづくりとDIY(Do It Yourself)
1 拡大するDIY
ホームセンターには、必ずと言っていいほどDIY(Do It Yourself)コーナーが配置され、お洒落な工具や園芸用品などが置かれている。DIYとは日曜大工や家庭園芸などに代表されるように専門家に任せず自分自身の手で身の回りのものをつくることや、補修などを行う活動のことである。近年では、こうしたDIYの拡がりを受けて、作業に楽しく取り組めるような、お洒落な道具・工具や材料、テキストを取りそろえた専門店なども生まれている。
DIYは材料費だけを考えても、大量生産で産み出される既製品と比べると必ずしも安価になるとは限らない。これに、製作者の人件費を加えると意外に高いものとなる場合がある。さらに出来上がったものの見かけも既製品の方が見栄えのよい場合も多い。
それでもDIYが次第に拡大しているのは、ものをつくるプロセスや手応えが楽しいこと、最終的にオリジナルなものができることにあると考えられる。また自宅のちょっとした隙間に配置する家具を必要とする場合、既製品では適当なサイズやデザインが見当たらなくても、DIYによって満足のいくものをつくり出すことができる。自分自身にオーダーをして自分にふさわしいものをつくることができるのである。
自分でつくり出すわけであるから、DIYの作品ついては少々の傷や失敗も気にならず、使い込むことで次第に愛着が増していくことも多い。DIYに取り組む過程では時としてミスはあるかも知れないが、楽しく取り組むことで失敗作にはならない。DIYに関わらなかった第三者から見れば既製品のように見栄えが良くなくても、製作者自身が納得するものであれば、それは立派な成功作である。すなわち関わっている人の評価がもっとも重要なものとなる。
既存のものではなく、オリジナルなものを持ちたい人たち、ものをつくるプロセスを楽しみたい人たち、ものをつくり上げることで達成感を得ることを期待する人たちなど、様々な動機でDIYを行う人たちが増えている。
言わば近代の産業社会において進められてきた工業製品に代表される効率化・規格化・分業化・外部依存化の枠を取り外して、ものづくりを自分たちの手の届くところから取り組みたいということが、DIYが拡がっている背景にあると考えられる。
2 まちづくりはDIY
なぜ、まちづくりの本の書名にDIYとあり、最初にDIYの話が書かれているのか、不思議に思われる方も多いだろう。奇をてらっただけではないかと思われるかもしれないが、そうではない。
まちづくりは、福祉のまちづくり、交通まちづくり、景観まちづくり、観光まちづくり、防災まちづくり、まちづくり会社、まちづくり条例など様々な意味と使われ方をしているストライクゾーンの広い言葉である。この言葉が多用される背景には、道路や建築物などの施設整備を行うことが中心となる都市整備などとは異なり、地域の住民が中心となってまちを舞台とした様々な取り組みや活動など行う分野を重視しようという気運がある。もちろん、まちづくりはソフトな分野だけを対象とするだけでなく、施設整備なども対象とする場合も多いが、そうした場合でも地域の人々との関係を重視した施設計画や維持管理が目指されている。
こうした「まちづくり」という言葉の多様性と言葉の成立の歴史的な経過を踏まえて、小林郁雄はまちづくりを「地域における市民による、自律的継続的な環境改善運動(活動)」と定義している(小林郁雄ほか編『都市計画とまちづくりがわかる本』彰国社、2011年)。ここで市民とは住民だけではなく、そのまちに関わりのある人々や企業・団体や行政なども含まれるものである。ここで環境というのは住環境改善といった狭い意味ではなく、むしろまちの持続可能性に関わる環境、社会、経済のすべての分野に広がっており、せんじつめればまちの人々の幸福度のアップが目的となっている。
そして、まちづくりは運動であり活動であるから、予算と工期を定めて取り組むプロジェクト(事業)と異なり、言わば終わりのない取り組みであると言うことができる。
こう考えると「まちづくり」は、先に述べたDIYと類似しているところが多くあることに気づく。自分たちの手の届くところから取り組みたいというところから出発し、自分たち自身が納得するものであれば、それは立派な成功作だというDIYの心が、まちづくりの原点なのだ。
いま、まちづくりの様々な課題が顕在化しつつある。例えば、まちづくりの主体として期待される地域コミュニティについても、自治会加入率の減少などから類推されるように弱体化し、担い手の高齢化などが進展している。その一方で、悪化する行政の財政を踏まえるとまちの安全や快適性の向上のために、まちづくりへの期待は高まる傾向にある。しかし、まちづくりを実践している担い手にとっては、まちづくりへの大きな期待は理解できるものの、世話役として様々な意見を持つ人々との調整などで過大な負担を感じたり、後継者が見当たらないことへの不安感を感じている場合がある。また、活動費を得るために公的な補助金を獲得しているうちに、活動が補助金を獲得することが目的となり、本来の目的を見失うことで活動が停滞する場合もある。さらに、他のまちづくり活動と比べてしまうことで焦燥感を感じることもある。
こうしたまちづくりの活動を進めるうえで感じる不安感や停滞感に対して、DIY的な心を持ってみてはどうだろうか。DIYと同様に効率化・規格化・分業化・外部依存化などの枠を取り外して、オリジナルなものを追求し、自分たちの地域のサイズでできることに取り組めば、他と比較することで優劣を感じる必要などもなくなる。そして何よりも、まちづくりのプロセスを楽しむことが重要であるという価値観を、まちづくりに参加する人々と共有することが可能となる。
3 まちづくりDIYの実践
本書ではこうしたDIYの心を踏まえて、これまで各地で取り組まれている様々なまちづくりを捉え直すことにより、まちづくりを成功に導く秘訣が見えてくることを意図してまとめたものである。
ここで、提示するまちづくりをDIY的に取り組む視点は次の五つである。
@愉しく元気に
A美しく美味しく
B工夫を重ねる
これら三つの視点については、DIYに取り組む場合に言わば不可欠の視点である。楽しく、美味しいから人々が関わってくれる。そして地域にとって相応しいものとする必要がある。そのためには工夫を凝らした試行錯誤も必要となる。そして、これらの取り組むプロセス自身も楽しいものであることが望ましい。
また、こうしたDIYの視点に加えて、次の二つの視点もDIY的なまちづくりには重要であると考えられる。
Cビジネスから
D未来に向けて
これらは、まちづくりが持続可能なものとして継続していくためには、そこで経済が回る仕組みを構築し、まちづくりが自立した活動となることが重要であるからである。さらに雇用などが生まれると素晴らしい。まちづくりの活動自身から新たなビジネスが誕生し継続していくことは、言わば理想的なことである。また企業がまちづくりDIYを実践し、まちづくりに貢献することが企業自体の価値を高めていくことにもつながっていく。そうした点から4番目に「ビジネスから」という視点を入れている。
また、地域で活動する企業や行政、まちのまとめ役がまちづくりを推進する主体になることも重要である。人口減少社会や高齢化の進展、財源の緊縮状況などを踏まえて、将来に禍根のない都市のあり方を構想する場合、市民からの理解と参画を得てDIY的に取り組まれることが不可欠である。市民と目指す方向を共有し、「未来に向けて」まちをつくっていくことを志向することが、企業や行政にも期待されている。こうしたことから5番目の視点として「未来に向けて」を入れている。
4 まちづくりDIYの課題とコツ
本書は、これらまちづくりをDIYの視点から取り組む五つの視点から構成されている。
これら五つの視点ごとに、関係する事例を配し、これらの事例を取り巻く[課題]をはじめに書き、具体的な活動の内容を記述し、最後に[コツ]として、こうした事例から学ぶべきことを取りまとめている。このような構成とした理由は、事例の紹介にとどまらず、まちづくりを進める場合にヒントになる重要な視点を一般化することで、より多くの人たちに参考にしていただけるのではないかと考えたからである。
本書が、現在まちづくりに取り組んでいる人たちへの参考や応援となり、これから新たにまちづくりに取り組もうとする人たちにヒントを提供することで一歩を踏み出していただける契機となればと考えている。
土井勉
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