RePUBLIC 公共空間のリノベーション


おわりに

 この10年、たくさんのリノベーションを手掛けて気づいたことがある。それは、リノベーションとは単に建築の再生ではなく、価値観の変革であったということだ。
 人間を包む空間を変えれば、そこにいる人々の行動や気分も変わる。楽しい空間は人々をハッピーにする。その積み重ねが新しい風景をつくる。空間の変化は社会の変化を喚起するのだ。単純なことだけれど、この本をつくるプロセスで改めて感じることができた。
 僕らは政治家ではないから、「公共の概念を変えよう」と声高に言っても説得力がない。建築家をはじめ、空間をつくることを仕事にしている人間ができることは結局、空間や建築で変化を起こし、理想の風景を描くことしかない。
 日本はまだ冗長性をちゃんと備え、変化を受け入れる幅を持っている。それはルールや常識が健全に働いている証拠だ。そういう意味でこの社会を信じている。それが少々硬直しているのなら、自由な発想や行動力で柔らかくすればいい。きっとそれが僕らの役割だ。
 いつの時代も社会を変えるのは確信犯的な楽観主義。
 「まあ、なんとかなるさ」とプロジェクトを起こし、障害にぶつかっては、修正や突破を繰り返しながら実現させる。始めてみなければ、何も起きない。そんな気分で、公共空間を改めて自分たちのものと捉え、変えていこう。
 最後に、2年がかりで出版を実現させてくれた学芸出版社の宮本裕美さん、僕の大雑把な発想に具体的なイメージを与えてくれたOpen Aの大我さやかさん、徹夜で編集作業につきあってくれたOpen Aの塩津友理さん、本当に感謝しています。そしてこの本をつくるにあたって協力してくれた、たくさんの方々、ありがとうございます。

2013年9月
馬場正尊