家族野菜を未来につなぐ
レストラン「粟」がめざすもの

おわりに


 「大和の伝統野菜を受け継ぐ種火となれるように」
 そんな思いで私たち夫婦の夢以外に何もないところからスタートした歩みは、今年20年を迎えました。
 本書でも紹介したように、数えきれないほど多くの人たちとのご縁と幸運に恵まれ、今の私たちのプロジェクトは存在しています。そして気が付けば、たくさんの物語のつまった種たちが私たちの手のなかに握られることになりました。
 そして今、機は重なり山形在来野菜をテーマにした映画「よみがえりのレシピ」に代表されるように、在来作物の種が静かに注目をあつめています。日本の農業はTPP(環太平洋経済連携協定)による大きな転換期を迎えていますが、同時に「スローライフ」「ロハス」「自産自消」「半農半X」といった時流のキーワードに表わされるように、ちいさな農を暮らしのなかに求める人も増えてきました。そんな時代の中で、家族野菜のエッセンスが活用され、各地でその可能性が芽吹き始めることを願ってやみません。
 おそらく私たちの世代は、日本の農村文化を体現してこられた方々とつながりが持てる最後の世代となるでしょう。農家の皆さんに教わった大切なこと。それは古の大和を、日本の文化を訪ねる入口でもあります。残る半生はその種火を、大切に守り育てていきたいと思っています。一粒万倍の実りをもたらす粟のように。
 最後になりましたが、「家族野菜」という新しいコンセプトを世に送り出す冒険に付き合ってくださった学芸出版社および編集者の中木保代さん。タイトなスケジュールにもかかわらず構成を担当してくださった同志の高橋マキさん。野菜の魅力を最大限に引きだしてくださったデザイナーの寶諸陽子さん、温かい装画イラストを描いてくださったdannyさん、素晴らしい写真を提供してくださった平岡雅之さん、池田麻里さん。素敵なイラストを担当してくださった榎森彰子さん。私たち夫婦を育み、いつも応援してくれる家族と清澄の里の皆さん。そして大和伝統野菜の素晴らしさを教えてくださった農家の皆さんに、この場をお借りして感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

三浦雅之・陽子