コミュニティ交通のつくりかた
現場が教える成功のしくみ

はじめに ─ 人口減・縮小社会に負けない地域をつくる


 日本のコミュニティづくりは、1・17、3・11の震災にふれないわけにはいかない。
 人口減・縮小社会のなかで発災した東北は、神戸のような復興は難しいだろう。同様に、多くの日本の地域社会も、再生や活性化は容易ではない。とはいえ、テレビ解説で聞いたようなうわ言を並べ、「デフレ」「デフレ」と老人鬱のように嘆いていても、何もはじまらない。
 経済成長しつづけ、永遠にカネが儲かる地域などあり得るのか。そもそもカネを儲け続ける必要があるのか。カネはちょぼちょぼだけれど、地域の特性、有利性を見極め、内外の人が交流し、微笑みあい、信頼が交わせる、出生率日本一の沖縄に学ぶ地域を、各地で育てる必要があるのではないか。
 こうした信頼にもとづくコミュニティづくりは、一人の専門家ではなく、多数の普通の人の手で実現する。コミュニティ生活の核心、コミュニティ交通を皆でつくるという作業は、人が行き来し、あいさつしあい、語り合う活性化の切り札なのだ。コミュニティ交通の計画では、大きな声、強いカネではなく、弱者(高齢者や未来を担う子どもたち)や、地域の片隅の声に耳をすまさねばならない。
 現代コミュニティはますます多元化し、多様な意見が噴出する。多様な立場がぶつかりあう。私たちは「おりあい」をつけて、コミュニティ交通をつくるしかない。コミュニティ交通を考えることは、つまるところ地域のリ・デザインをすることである。
 本書では、北海道当別町の地域連携バス、富山県高岡市万葉線と茨城県ひたちなか海浜鉄道・和歌山電鉄・三岐鉄道、京都府京丹後市の上限200円バスと北近畿タンゴ鉄道、神戸市住吉台くるくるバス、淡路島長沢の過疎地住民維持バスと超小型電動自動車、山口市の幹線整備・情報提示と住民協働型コミュニティタクシー・グループタクシーの試みを報告する。さらに、茨城県日立市の住民協定方式や大阪市交通局民営化にともなう交通空白区問題についても言及したい。
 「つくりかた」と銘うっているが、ここで紹介するコミュニティ交通のつくりかたをマネしたって、できっこない。参考にはなるだろうが…。むしろ、成功したコミュニティ交通のインフラ、モードに注目するのではなく、交通を自らつくろうとする想い、活動が、住民を活性化させ(ときには、行政職員や交通事業者を元気にし)、地域が躍動するプロセスに注目してほしい。コミュニティ交通計画づくりの手法(議論の場の設定、フィードバックとしての通信全戸配布、コーディネータの発見・確保、住民・行政・事業者の協働)も参考になる。が、それよりも、地域の有利性や人材を見つけだし、住民が「こんな町にしたい」という想いを広げるプロセスを感得してほしい。小さなコミュニティバス開通をみんなで万歳している「連帯する幸福物語」を味わっていただきたい。

2012年12月      
 森栗茂一