コミュニティ交通のつくりかた
現場が教える成功のしくみ

おわりに ─ 地域を守る知恵を活かせ

 日本では、高速道路無料化、1000円高速、エコカー減税など、自動車に関わるものには、惜しみなく税金がつぎ込まれる。道路予算は5兆円を超え、旧自動車特別会計も5兆円を超える。年金補填と医療介護の予算は40兆円を超えて増え続けている。
 にも関わらず、新幹線と空港を除けば、公共交通には0・03兆円しか配分されていない。しかも、予算は、利用者や利用者利便の計画、設備に使われるよりは、交通事業者の支援に使わることが多い。赤字バス路線のバス、赤字バス会社の補填に使われることはあっても、坂道に苦しむオールドニュータウンの新路線支援や、過疎地の通学費用に苦しむ世帯の運賃支援、廃止寸前の地方鉄道に使われることはほとんどない。
 一方、自治体は、高齢者の移動支援のための公共交通無料券やタクシー補助には、福祉予算を組むが、現役世代・若者支援は皆無である。年金の多い高齢者が無料でパスを手にし、仕事を求める若者が高いバス代を支払えず、自転車で職安に通っている。こんな町に活気があるわけがない。
 そもそも地方では、無料パスを使うバス路線さえ確保されなくなっている。こうしたなか、各地で努力する自治体、市民活動、住民運動が起きている。単なる署名や要求ではない、自らすすんで地域のインフラを確保しよう、バスを運営しようという動きである。それに連動、協働しようという公共交通事業者(鉄道、バス、タクシー)も少なくない。
 本書は、その先頭に立つ、コーディネータ、行政マン、リーダー、分析者に書いていただいた。国や自治体の幹部や議員さん、交通事業者の皆さんは、本書を読んで勉強して欲しい。地域を守る知恵がこのように展開している。日本も見捨てたもんじゃない。せめて、国の生活交通予算を300億から1000億にすれば、全国の公共交通の運賃はすべて半額にできる。せめて、自治体の高齢者無料、タクシー支援を、若者、子育て世帯に半額で拡大できれば、この国の未来が見えてくる。
 鉱油税を公共交通に投資するのは、米国を含めた世界の常識、EUでは、運賃支援のための国境を越えた支援もある。日本の人口の半分の韓国では、国家事業として800億円の税金を入れて公共交通施策を展開している。最悪、日本国政府だけがなかなか変わらなくとも、富山市のように、首長のリーダーシップがあれば、公共交通を活かしたまちづくりができる。
 間もなく、わが国でも交通基本法が成立する。小さな第一歩であるが、生活交通の強化は待ったなしである。今こそ、政治の知恵が求められる。住民自治のマネージメント力が求められる。本書は、そのチャート(海図)の一助になると確信する。
 多忙ななか、分担執筆いただいた共著者の同志と、私に白羽の矢をいただいた学芸出版社の村田譲さんに深い感謝をこめて、おわりの言葉とさせていただきます。

2012年12月19日                       
大阪大都市圏地域公共交通会議の議論の翌日
森栗 茂一