田舎の宝を掘り起こせ
農村起業成功の10か条

あとがき


 農村起業家のストーリー、いかがだっただろうか。さまざまな地域で、またさまざまな分野で、農村起業が芽生えている新たな息吹を感じてもらえただろうか。また、読者によっては、農村起業家たちの幅広い取り組みに驚かれた方もいるかもしれない。農村起業家の取り組みのイメージというと、農業などの生産をベースにした、ある意味、限定された農村での取り組みをイメージされる方が多いからだ。農村起業は、もっと幅広いものだ。耕作放棄地、森林、農産物、特産品、自然エネルギー資源、自然資源、伝統資源など、多様に広がる農村資源をベースに、事業が組み立てられるからだ。さらにそれらの農村資源に、農村起業家ひとりひとりの独創的なアイデアや知恵が加わって事業が生み出されるので、事業分野は幅広いものとなる。
 私は、この幅広さにこそ、農村起業の可能性と魅力と醍醐味を感じている。本書をお読みいただい方は、この点に共感いただけるのではないかと思う。また私自身、今回の農村起業家の支援活動の中の“ある日”を通して、より一層のその可能性と魅力と醍醐味を確信したのだった。そのある日は、2012年2月18日。その日、「農村起業EXPO」というイベントが、東京で行われた。その日は、我々が起業支援した北海道から九州の農村起業家たちが、一同に集結した日だった。このイベントは、農村起業家たちが事業化した商品やプロジェクトを一般の方々に公開する、いわば、農村起業家のお披露目を兼ねた見本市のようなものだった。しかし当初、このイベントを企画した我々も、どのぐらいの方に関心をもって来場いただけるか不安であった。なにしろ、農村起業家たちのお披露目の見本市のようなイベントは、今まであまり聞いたことがない。しかし、イベント当日、ふたを開けてみれば、来場者多数、満員御礼、大盛況であった。このイベントの中で、農村起業家たちのプレゼンテーションも行なわれたが、会場では立ち見もでるほどで、会場に入りきれないほどの賑わいとなった。もちろん、会場の雰囲気は言葉では言い表せられないほどの熱気であった。
 また、ある来場者が、私にこう言った。「農業に対して抱いていた、ある種の暗いイメージのようなものがここにはない。農村起業も似たようなものかなと思って来たが、まったく違う。農村起業のイメージが、がらっと変わった! 取り組んでいる内容もこんなに幅広いとは思わなかった。第一、今日会った農村起業家たちの幅広い性別、年齢、経歴、キャラクターなどのバリエーションに驚いた! 従来の農業というイメージには出てこない人たちだ。この人たちは、社会を変えるかもしれない」と興奮した様子で私に話してくれた。私にとって、この言葉は決定的だった。私の中での農村起業のイメージを固めるうえで。そしてこの瞬間、農村起業のこの幅広さこそ特徴であり、可能性と魅力と醍醐味なのだと、私自身、確信したのであった。
 農業・農村に対するイメージは、近年、ずいぶんと変わり、よい印象を持つ人も現れてきてはいるものの、まだまだ暗いといったイメージが支配的だ。一方、今後日本では、農村の各地域が、自立した経済や暮らしのあり方を求められることになる。ただし、この点は農村地域に限った話ではなく、不況が長引く日本全体においても同様のことがいえるだろう。そんな状況の中で、幅広い分野で活躍する可能性と魅力と醍醐味を持った農村起業家の登場が、今後さらに期待されるというものだ。農村起業家の興した事業が、自立した地域の経済や暮らしのあり方を作り、農業・農村のイメージを変えていくのだ。本書で取り上げた農村起業家のみなさんは、まだ起業したばかりで、安定した事業とはいえないかもしれない。しかし、勇気を持って起業を果たした行動は称賛に値するものだと思う。読者のみなさんも、ぜひ応援していただければ幸いである。
 本書は、以下の方々の協力なくしては完成することはできなかった。この場を借りて、深く感謝申し上げたい。今回の農村起業家の支援活動の中で、コンサルタント役として農村起業家たちを支援いただいた、東山雅広氏、村井正太郎氏、小松俊昭氏、野沢清氏、小野隆氏、藤尾正英氏。また、我々の農村起業家を支援する事業を、政策サイドからご支援いただいた内閣府地域社会雇用創造事業の関係者のみなさま。また、本書を執筆するに当たり、さまざまにご助言をいただいた学芸出版社の前田裕資氏、中木保代氏に、改めて、深くお礼を申し上げたい。
 そして最後に、今回、本書で取り上げた45人の農村起業家の今後の活動に、さらなるエールを送りたい。

2012年9月  編者・著者を代表して 曽根原久司