駐車場からのまちづくり
都市再生のために

はじめに


 『駐車場からのまちづくり』というタイトルを見て、何を感じられたでしょうか? 駐車場でイベントでもやるのか、街の特産品でも売ろうというのか、駐車場とまちづくりなんて関係ないじゃないか…と思う方もおられるのではないでしょうか。
 最近出版されるまちづくりの本の多くは、公共交通を大切にした街・歩いて楽しい街をつくるべきだ、環境に優しい都市を目指そう、ユニバーサルデザインが大切だ、コミュニティの力・ソフトの力でまちづくりを実現しよう、そういうトーンでまとめられており、駐車場からまちづくりを考えようなどという論調はほとんどありません。
 ただ、冷静に考えて下さい。現在、自動車は高齢者・障害者にとって極めて大切な交通手段で、わが国の地方部では人間1人に対して0.8台以上の自動車が存在します。そして、自動車は出発地と目的地の両方にそれぞれ1台当たり概ね8畳の駐車空間が必要です(持ち家の1人当たり面積とほぼ同じ)。結果として、多くの街ではすでに中心部に地区面積の20〜30%を占める駐車場が存在しているのです。計画的な街でも公園は地区面積の3%、道路は25%程度ですから、まちづくりとしてこの空間を無視することはできません。
 しかも、今の駐車場は「とりあえず駐車場」や「自動車げた箱」で、とても魅力的とはいえません。だからといって、嫌悪感からくる「無関心でいることが正しい態度という姿勢」では、現実に目を背けている、といわざるを得ません。我々はもっと正面から駐車場に向き合う必要があると思います。
 本書は、公益財団法人国際交通安全学会の自主研究プロジェクトとして3年間活動をした成果です。多くのデータはこの研究活動の中で独自に収集したもので、密度(Density)、配置(Disposition)、デザイン(Design)そして運営管理(Management)の〈3D+M〉をキーワードとしています。
 都市計画、交通計画、建築、造園、福祉、行政など様々な分野の専門家が集まって議論を重ねた結果をご一読頂き、ご批判を賜れれば幸いです。
執筆者代表 岸井隆幸