100%再生可能へ!
欧州のエネルギー自立地域


はじめに〜地域のエネルギー自立から始まる日本再生


 再生可能エネルギーによって地域で消費する電力や熱、燃料の大半を自給する自治体がある。スイスに住む私が初めてそんな話を聞いたのは2005年、バーゼルで開催されたバイオマスサミットでのことだ。オーストリア・ギュッシング市のパイオニアであるラインハルド・コッホさんの講演が強烈に印象に残った。ギュッシングはエネルギー自立を柱とする地域発展戦略により、地域の経済と社会を活性化させていた。その頃、ドイツやオーストリアではすでに、そうした成功事例が農村部を中心に現れてきていた。そのいくつかを訪ね歩くうちに、私は地域のエネルギー自立が、大局的には気候・エネルギー問題の、そして足元では地域社会の未来の鍵を握るテーマであると確信するようになった。

 こういった地域のエネルギー自立、あるいは100%再生可能エネルギー地域の運動は、ドイツ語圏では過去2年ほどで飛躍的な発展期に入り、自立を目指す地域の数は増え続けている。ドイツでは2009年に第1回「100%再生可能エネルギー地域」会議が開催され、2010年3月にはドキュメンタリー映画「第4の革命〜Energy Autonomy(エネルギー自立)」(カール-A・フェヒナー監督“Die 4.Revolution. Energy Autonomy”(原題)、日本では2011年12月より上映)が封切りとなり、運動を社会に広く知らしめた。同年秋、私の住むスイス・ベルン州では老朽原発の建替え(新設)を巡って、再生可能エネルギー派と原発推進派の住民や政治家、産業界の間で激しい攻防戦が繰り広げられ、各地でこの映画の上映会が開かれた。その主役を務めたドイツの政治家ヘルマン・シェーア氏が映画の中で語った言葉が心に残った。

 「エネルギー供給はデモクラシー化を迎える。どんどん多くのエネルギー供給者が出てくる。より多くの個人レベルでの自立、より多くのローカルな自立、より多くのリージョナルな自立、そしてより多くの国の自立へ。(中略)我々は産業時代の始まり以来、最大の経済構造変革に直面している」

 シェーア氏の指す変革の現場が地域と住民であることは言うまでもない。そして変革の空気は欧州に住む我々にとって、肌で感じられるものになっていた。

 この運動を日本に伝えなくてはならない、と決意したのが2010年末。意を同じくするドイツ在住の環境ジャーナリストである村上敦さん、池田憲昭さん、近江まどかさん、そしてイタリア在住のデザインジャーナリストである田代かおるさんとチームを組み、単行本企画を練り上げた。その時、東日本大震災と福島第一原発事故が起きた。欧州に暮らす我々の人生にも激震が走った。以後、学芸出版社の宮本裕美さんの協力を得て、日本の地域の人々に100%再生可能エネルギーが実現できるということを伝えたい、そして役立ててもらえる本を作りたいという一心で、多忙なフリーランスの仕事の合間を縫って各人が原稿を書き下ろした。

 本書は、著者たちが読者を現場に案内しながら、その背景事情についてセミナーを行うような構成になっている。第1章では、欧州中部(ドイツ・オーストリア・スイス)におけるエネルギー自立の潮流と定義、地域社会へのメリットや促進プログラム、そして国レベルへのビジョンの広がりを紹介する。第2章以降は、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、デンマークから、地域の持つ資源を総合的に活かして電力や熱のエネルギー自立に取り組んでいる地域の事例を紹介する。農村部から都市部まで異なる規模やタイプの地域を選び、その計画から実現へのプロセス、効果や課題を描き出す。その際、各章の導入部では、各国のエネルギー事情を短くまとめた。そして最終章では、地域のエネルギー自立にとって重要なフレームワークについて、制度・社会・技術といった面から俯瞰的に解説する。

 日本では福島第一原発事故の影響もあり、エネルギーというと電力の話に偏りがちである。だが、電力はエネルギー自立の三分野の一つにすぎない。残り二つの熱と交通分野についても同時に取り組むことが不可欠だ。そのため本書では、電力分野だけでなく、熱分野の省エネと再生可能エネルギー供給についても力を入れて解説し、交通分野についても可能な限り触れた。

 本書が、読者の皆さんにとって自らの地域のエネルギー自立を具体的に考え、行動するきっかけになってくれることを、著者一同願っている。

2012年1月7日 執筆者を代表して 滝川薫