地域主権時代の新しい公共
希望を拓くNPOと自治・協働改革

推薦の言葉

 本書の目的は、何よりもまず、現実におけるNPOの役割を具体的に明らかにすることである。しかも、本書は、活動家としての著者の豊富な経験知に基づいているという特徴を有している。
 さて、現代の日本社会は、市場社会である。経済活動は、基本的には市場に依存して進展している。需要は、まず企業が市場において満たす。しかし、「市場の失敗」が生ずる場合には、満たされない需要は政府が満たす。予算や専門家の不足などで「政府の失敗」が生ずることになる。この場合には、満たされない需要はNPOが満たすことになる。ただ、「NPOの失敗」も存在しうる。資金や専門家、組織力などの不足がその原因である。
 このように三つの部門によっても満たされない需要は、もう一度企業が満たすべく挑戦するか、三つの部門がそれぞれ協力して満たすことになる。
 こうした三つの部門を整理すると、次のようになる。
  企業(市場):private、私、第一セクター
  政府:state、公、第二セクター
  NPO:public、共、第三セクター
 NPOは、言葉の本来の意味の第三セクターであり、その中核的部分は公益目的のNPOである。
 ところで、本書のタイトルを構成する「新しい公共」であるが、鳩山政権下で提起された、いささか曖昧な概念である。「古い公共」は政府部門そのものであるらしい。政府が担っていた領域をNPOに委ねる、そのような分野が「新しい公共」なのであろうか。この場合、どのような「政府の失敗」が存在するのか、必ずしも明らかではない。
 もともと、私、公、共の三部門がそれぞれの役割を有し並存していた。共は、私と私の協力・相互依存、利害調整などに関する分野である。社会の近代化とともに、共は公に吸収され、しだいに細ってきた。その結果、公共=政府という理解が一般化した。公と共が混同され、公共というように一般化されたのである。
 いずれにしても、NPOの活動は、「新しい公共」を大きくはみ出して展開している。ただ、本書で著者の主張する「新しい公共」とは、政府部門を越えて新しい経済主体として活躍するNPOを指している。「新しい公共概念」はすでに多義的になり始めている。この点で、読者は戸惑いを感じるかもしれない。
 なお、現在、わが国社会は地域主権という方向に動きつつある。そして、地域主権時代には、NPOの活動範囲は拡大傾向に入ると思われる。地域主権は、行財政の地域分権化を越えた概念である。地域活性化の担い手は、広く地域の人々である。例えば、産業を創出するにしても、さしあたりは市場になじまない分野が少なくない。財政力が低下しているから、行政依存にも限界がある。
 今後、NPOが経済的に自立しうる事業モデルを開発する必要があろう。NPOが力をつければ、行政や企業との協働の場面も広がろう。こうした点にも本書は示唆を与えてくれる。
 NPOが重要な役割を果たす時代は、漸く幕が開いたばかりである。それでも、すでにNPOは多様化しつつあるし、問題も生じている。もちろん、本書は、そうした問題解決に一石を投じている。本書が、若い人達に、NPOの未来について何らかの方向を照らす羅針盤のような役割を果すことができれば幸いである。

法政大学学事顧問 清成忠男