田園サスティナブルライフ
八ヶ岳発! 心身豊かな農ある暮らし

まえがき


 八ヶ岳山麓と東京との二重生活を始めて10年ほどになる。
 東京では、平日、環境省という国の役所で朝から夜中まで忙しく仕事に追われている。そのため、職場でも東京の家でも、“効率性”を最重視し、現在の“ハイテク”な技術に最大限依存しながらクイックライフを過ごしている。
 一方、八ヶ岳山麓では、7年以上の歳月をかけて建てたエコハウスで、自給的な有機農を営む夫と息子、娘の4人暮らしで田舎暮らしを楽しんでいる。
 このようなライフスタイルを紹介すると、多くの人が「よく続く」と関心するが、「八ヶ岳の生活があるからこそ、東京の自分が元気になる」のだ。
 八ヶ岳山麓のスローライフ、エコライフに触れたのは、今から10年以上も前。新しい環境施策を導入していくための関係省庁や民間企業との利害調整の難しさを実感し、また、都会の生活の中では人間を幸せにする持続可能な社会の姿が具体的に見えない閉塞感を抱いていた頃、八ヶ岳山麓の地に足を踏み入れた。
 「世の中にこれほど美しい場所があったのか」。夕焼けを背景に赤く染まる富士山や八ヶ岳等の山々を眺めながらその美しい自然景観に感動するとともに、都会と田舎の往復生活の中で、ここで暮らす人たちの知恵や暮らしの営みから、持続可能な社会づくりにつながる小さな発見を繰り返し得た。
 古くからこの地域に代々住み、地域の自然の状況を熟知し、森、川や田畑などの地域の自然の管理に尽力してきた人たち。また、八ヶ岳山麓で生まれ育ち、一旦仕事等で上京したが、この地域に戻り、地域の活性化に尽くす人たち、都会から八ヶ岳山麓の自然環境に魅了されて移り住み、農と自然に親しむ暮らしを追及する人たちなど。
 このような人たちの多くは、暮らしの中で、農作業や森の間伐作業などを通じて自然と関わっている。田畑で自らが育てた新鮮な野菜などをいただき、間伐で得た材を、マイホームの建設や、ストーブの薪として利用するなど、自然の恵みで自らの暮らしを豊かにしている。すなわち、地域の自然資源を自らの手で活用し、管理することで、環境に負荷の少ない自給自足的な心豊かな暮らしを追求、実践しているのだ。このような暮らしは田園地域でしか実現できない、田園地域であるからこそ実現できるライフスタイルである。本著ではこのような生き方を「田園サスティナブルライフ」と名づけたい。
 このような田園サスティナブルライフの実践は、八ヶ岳山麓に限られることなく、多くの田園地域で広がっている。
 また、現在の情報の発信は東京等の都会が中心となっているが、私は持続可能な社会づくりの知恵と経験は、田園地域の実践にこそ多く隠れており、田園地域から積極的に発信すべきだと考えている。都会から田園地域に移住した私は、日々、田園地域に潜む宝に感動し、勇気と元気をいただく日々を楽しんでいる。
 この本では、平日都会人であり、休日田舎人かつ農家の嫁である私の視点で、八ヶ岳山麓を中心としたわが国における「田園サスティナブルライフ」につながる暮らしや活動事例を紹介しながら、持続可能な未来を切り開くヒントを考えたい。