田園サスティナブルライフ
八ヶ岳発! 心身豊かな農ある暮らし

あとがき


 田園サスティナブルライフを追求する動きは、わが国だけで生じているものではない。今から10年ほど前に私が滞在していた英国においても、自然と共生した心豊かな自給自足的な暮らしを実践している人たちが確実に増えていた。英国や欧州に広がりつつあるエコビレッジ建設も田園サスティナブルライフ“ブーム”の中の一つの動きである。パーマカルチャーは、発祥地のオーストラリアだけでなく欧米など世界各地での田園サスティナブルライフの実践にあたっての基本的な考え方として普及している。
 欧米と比較した日本の田園地域の特徴は、@多くの自然資源が残されていること、A田園地域の文化・伝統や地縁コミュニティが残されていることである。これは、より豊かな田園サスティナブルライフを実践するためにとても重要な側面だと考えている。そのような日本においてこそ、様々な形の田園サスティナブルライフの実践が広がり、持続可能な社会を築き、その経験を世界に発信していくことが求められているのではないだろうか。
 2011年3月11日、日本がそして世界が、これまでかつて経験のしたことのないような大災害に見舞われた。大地震、巨大津波、原子力発電所事故。数多くの方の命が犠牲になり、多くの家屋や工場、事業場が破壊され、美しい海岸沿いの町が壊滅状態になった。
 原子力発電所事故に伴い、東京電力管内では計画停電が実施され、家庭や企業での強制的な節電が促される事態となった。また、電気、ガス、水道などの社会インフラが地震で機能しなくなり、非常に多くの人々が不便な生活を強いられる結果となった。
 今回の大震災は数多くの人に筆舌に尽くせない深い悲しみと傷を与えるものとなってしまった。一方、それだからこそ、今回の大震災を、日本及び世界のエネルギー体系や近代的な暮らしのあり方について抜本的に再考する機会にすべきであろう。
 このような事態において改めて評価できるのが、社会インフラだけに頼らず一定程度の食とエネルギーを自給自足できる暮らしぶり・地域づくりだろう。1年分の薪のストックと薪ストーブがあれば、灯油を手に入れることができなくても、暖房と料理のための熱が確保できる。各家庭で農的暮らしによる食の蓄えがあれば、流通システムが途絶えても、地域内で一定期間自給することが可能だ。
 日本の、そして世界の今後の行く末を考えたとき、「田園サスティナブル」の実践が持続可能な未来を切り開く一つの鍵になっていくのではないかと、私は考えている。
 なお、私は環境省、長野県庁という役所に勤めているが、この本での見解は、環境省や長野県庁の見解ではなく、個人の見解、考えであることを断っておく。
 最後に、この本の執筆のために、取材にご協力いただいた八ヶ岳山麓及びその他の地域の人たちに心より感謝を申し上げる。
2011年4月  中島 恵理