現場発!
産学官民連携の地域力

おわりに

 そもそもKNS発足に向けた問題意識は約15年前に遡る。与那嶺氏が本文中で書いているように、当時シンクタンク研究員であった私と与那嶺氏は一緒に仕事をすることが多く、各地で進められている産業振興プロジェクトやそれを牽引するコーディネータなどを調査しては、その成功要因・失敗要因について頻繁に議論を重ねていた。
 当時を思い起こすと、「プロジェクト推進のために、ヒエラルキーを重視し、当事者意識のないメンバーが権威主義的かつ形式的に集められた組織」「同業種の集まりで刺激が少なく愚痴と人の悪口ばかりを言い合っている異業種交流会」「企業への利益還元を目的としているはずなのに、自分への利益誘導を率先する自称コーディネータ」「交流したら即連携や協働が生まれると信じ、すぐに成果を求める行政マン」などの存在に出会し、何となく違和感を抱きながらも、どうしたらこれらの課題が解決でき、本当の意味での結果が生まれるのか、二人とも悶々としていたことを覚えている。
 1998年夏に偶々仕事で訪れた岩手でINSに出会い、産学官民コミュニティの重要性に何となく気づいてからは、その悩みは次第に払拭されることになる。以降、仲間とともに同種のコミュニティ立ち上げを試みるが、経験値の少なさから失敗に終わり、具体的実現には程遠い感触があった。
 本文中にも記したが、2002年11月の「第2回INSinおおさか」の二次会の席上でKNS発足機運が沸き起こった際に、酔った勢いで「一旦立ち上げたら棺桶に入るまで続けることになるが、それでもいいのか」と呼びかけたところ、本書の執筆者でもある三宅氏が「一人で背負うことはないし、梯子を外さないから是非やろう」と力強く言ってくれたことは今でも強烈な印象として自分自身の脳裏に焼き付いている。周りにいた仲間も、お酒の勢いはあったかもしれないが、「やろうぜ」という強いメッセージを発してくれたことは確かである。この熱い思いと仲間のメッセージが、私と与那嶺氏をはじめとした後の発起人メンバーの心を動かし、ようやく2003年6月にKNSを立ち上げることができた。
 それ以後、約8年間、思いを共有する熱い仲間とともに「産学官民連携はコミュニケーションからはじまる」を合い言葉に、大小併せて500回以上にも及ぶ活動を重ねてきた。その間、一部発起人の退会や世話人メンバーの交代など初期メンバーに変更はあったが、8年経った今も発足当初の仲間を含めて全国各地で約280人の仲間が元気に活動を行っている。
 KNSは、ある意味「遊び」のプライベートな活動なので、活動を行えば行うほど、お金も時間も家族とのコミュニケーションもなくなり、時には「自分はいったい何をしているのだろうか」「本当にこんなことをする意味があるのか」と疑問に思うこともあった。しかしそんな時にKNSに集まってくれた仲間が「楽しかった」「元気になった」「来て良かった」と笑顔で言ってくれると、やって良かったなという思いが募り、再び自分自身のモチベーションが高まって、次の活動の企画に入るという繰り返しの日々であった。
 また、回を重ねれば重ねるほど、いろんな仲間に出会う機会が増え、皆一様に友人も増えた。各地各所で様々な協働の動きに発展している例や、直接的な「連携」の事例ではないが、KNSを通してモチベーションが高まったとか、視野が広がった、人脈が広がったといった話を聞くと、まだまだやり続けなければならないなと、いわば使命感みたいなものさえ感じるようになった。ここに書き記すことによって、おそらく、発足当初に仲間と交わした契りを生涯貫くことになるのではないかと改めて思っている。
 KNSを通じていろんな人に出会ううちに、熱い思いを持って頑張っている人が全国各地にたくさんいることに気づいた。冒頭にも書いたように、これらの人たちとコミュニケーションをとるにつれ、表面上は成功しているように見えても、舞台裏では悪戦苦闘の連続で、相当な苦難を熱い思いと志で乗り越えていることを知るようになった。しかし、その現場人の思いや苦労、そして経験値を伝える機会や手段もなければ、第三者を介するとなかなか正確には伝わらないという現実があった。「なんとか現場の思いを正しく伝えたい」。長年こんな思いを抱きながら、いつかはKNSで本を出版したいと思っていた。
 執筆を依頼したみなさんは本業が多忙であったが、予定通りここに日の目を見ることができたことは大変嬉しい限りである。執筆者の思いが十分伝えられたかどうかは読者の判断に委ねなければならないが、日々現場で悪戦苦闘する思いの丈を自分なりの表現で記したことには大きな意味があったのではと考えている。
 最後に、本書の発刊に当たっては、大変多くの方にお世話になった。執筆者であるKNSメンバーの他、編集委員としてこのプロジェクトに参加してくれたKNS世話人の長川勝勇氏、平山知明氏、吉田真二氏には記して謝意を表する次第である。
 また、このプロジェクトを実現に導いて下さった株式会社学芸出版社の岩崎健一郎氏には、企画段階から出版に至る最後まで多大なご苦労をおかけしたし、我々の思いに共感して下さり出版企画にご尽力をいただいた同社京極迪宏社長にはKNSメンバー一同、心から感謝の意を表する次第である。

2011年2月 堂野智史