成功する地域資源活用ビジネス
農山漁村の仕事おこし

あとがき


 最近の日本の社会状況は、「縮み依存志向」が蔓延しているように思われる。若者は寄らば大樹の蔭とばかりに大企業への就職希望が強く海外に行くのも嫌がる、高齢者は負担を嫌がり社会保障のつけを現役世代に押しつける、地方や農業は国の支援や補助金に依存しようとして自立の気概が感じられない。

 だが、時代環境はまったく逆の方向に進んでおり、大企業もリストラと無縁ではいられないし、国際化に乗り遅れると衰退モードに陥る可能性が高い。社会保障もこのままでは制度を維持できなくなるのは確実であり、負担と給付のあり方を抜本的に改革せざるをえなくなっている。国の支援や補助金も、財政難からこれまでのように大盤振る舞いできない。

 日本の社会が時代環境に逆行するような「縮み依存志向」を強めるなかにあって、最も不利な環境に置かれている中山間地において、地産地消のビジネスにとどまることなく、大都市圏に積極的に売り込もうとする地産地商のビジネスを展開している三セク会社が、数多く存在していることに驚かされた。本書は、こうした三セク会社を紹介するとともに、その成功要因を分析して、広く参考にしてもらいたいという意図から書いたつもりである。

 地域調査を実施しているなかで強く印象に残ったのは、成功している三セク会社には、必ず興味深い中心人物が存在していることであった。これらのキーパーソンは、すでに亡くなられている方もいたが、関係者から人となりを聴くだけで、相当魅力的な人物であったことを想像することができる。現役で活躍されている方の話は、臨場感があって引き込まれてしまう。

 地域振興に必要なのは、巨額な国の補助金ではなく、人材であることを実感させられた次第である。しかも、キーパーソンの人物像を調べると、少数例外的な人物ではなく普通の人の延長線上にいることがわかり、アイデアと実行力があれば、巨額な補助金がなくても、多くの地域で地域振興や雇用創出が可能であることを示唆している。このことが、本書の中心的な事実発見であり、地方の将来にも明るい展望を抱くことができる。

 ところで、本書が誕生したのは、学芸出版社の宮本裕美さんから突然出版の話を持ち込まれたことがきっかけであった。本書は、筆者が勤務先で担当した調査研究の報告書『中山間地の雇用創出』に、大幅な加筆修正を加えて完成させたものである。本業の調査や講演などに追われるなか、何とか出版にまで辿りつくことができたのは、頃合いを見計らった宮本さんの督促のお陰であり、感謝する次第である。

2011年1月
伊藤 実