地域ブランドと魅力あるまちづくり
産業振興・地域おこしの新しいかたち

おわりに


 
 岡山県真庭市(人口5万人)の勝山地区は、古くからの城下町で、かつて出雲街道の宿場町として栄えたところだ。白壁の土蔵や連子格子の家々が連なる町並みが残り、伝統的な風情を醸しだしている。この歴史的町並みで特徴的なことは、家々の軒先を飾る色鮮やかな暖簾の存在である。
 「ひのき草木染織工房」の店主が、町に何か特徴をと考え、自らの店の軒先に暖簾をかけ始めたのがきっかけである。今から15年ほど前のことだ。その美しさに惹かれて次々と賛同者が増え、現在では約100軒もの家々に暖簾がかかっている。商店や工房はもとより一般の民家にも、その店や家を象徴するセンスある暖簾が飾られている。
 今では「暖簾のある風景」が、勝山の町を表す代名詞となり、それを見に訪れる旅行者も増えてきた。自分の町に対する愛情と誇りが住民の一体感を呼び、旅行者へのもてなしの心と重なったものだ。勝山の試みは、住民の自主的な行動から成り立っている。それが結果として、歴史的町並みに付加価値をつけることとなった。
 ブランドとは顧客からの評価である。地域ブランドにおいても全く同じである。歴史的町並みのような文化資源では、そこに居住する地域住民が暮らしに満足しているかどうかがブランド化の大きな鍵となる。勝山の事例からも理解されるように、地域住民の町に対する良好な評価が「文化・環境ブランド」を創りだす。そして、その良好な評価が外部へと伝わり「特産物(サービス)ブランド」「観光ブランド」の形成を助け、さらには統合ブランドの確立へと結びついていくのだ。

 急速に成熟化しつつある日本では、人々の抱く興味や関心が個性化し多様化している。このため、地域性を活かした商品開発や個性あるまちづくりが、これまで以上に人々から受け入れられる可能性が高まってきた。
 また、今後の日本は、地方分権化が進むなかで、否応なく地域間競争の荒波にさらされるだろう。これらに対応していくためには、各地域が個性を磨き、独自の魅力を備えておかなければならない。そのためには、持てる地域資源(自然、歴史・文化、地場産業等)を存分に活用することで、地域のブランド力を高めておくことが不可欠である。

 本書では、現在、全国各地で取り組まれている地域ブランドの事例を、数多く取り上げた。これらを参考に、読者が今まで以上に地域ブランドと魅力あるまちづくりに関心を持って頂けるならば幸いである。

 本書の執筆に際しては、各地で地域ブランド構築やまちづくりの第一線で活躍される多くの人たちから協力を頂いた。特に、事例研究に当たっては、現地調査や資料収集、写真提供などで多大なお世話になった。記して感謝したい。
 学芸出版社の前田裕資氏には、本書の企画段階から的確なアドバイスを頂いた。また、私事により脱稿が大幅に遅れたが、その間辛抱強く待って下さった。心よりお礼申し上げたい。編集は、前著に続き小丸和恵さんに担当して頂き大変お世話になった。
 最後に、今年94歳を迎えた父・茂と、88歳を迎えた母・姫子に本書を捧げることとしたい。

2010年12月   佐々木 一成