新版 コミュニティ・ビジネス


おわりに

 
 日本が戦後65年にわたり営々と築いてきた社会経済構造が音をたてて崩壊しています。それと同時に新しい社会経済の創造が始まっています。創造的な破壊を繰り返しながら新しい仕組みに創り変えられつつあるというのが、いまの日本社会の現状でしょうか。それは、インターネットなどに代表されるICT(情報通信技術)を活用した高度情報社会、すなわち(自立分散型の)知価社会に向かっていくことを示しています。大量生産、大量消費、均一社会をめざしてきたわが国も、ここで大きく方向転換をし、市民・住民自らの発意と工夫によって知価を産み出す社会経済構造に創り変えていかなければならないのです。

 それにしても、そのことがもたらす市民の生活、暮らしへの影響はあまりにも大きすぎます。国内を見渡せば地方都市の中心街はすでに衰退しきっており、次代を担う後継者が育っていません。中小・零細の製造業も、いままでの大企業系列から解き放たれ、真の自立が求められています。そうした生業への変化が求められているのは零細事業者や自営業の方ばかりではありません。いままで企業に従順だった中高年のサラリーマンまでが、企業から放り出され、職を失って、家庭へ、そして地域コミュニティへと還ってきているのです。

 そのような地域コミュニティでは、彼らが自己雇用を創りだすために仕事を起こしやすい環境を整備しなければなりません。このことは、わが国が明治維新以来の大変革期を迎えていることを意味します。明治維新時は身分と職を失った多くの武士が、自己雇用として農業に活路を見出して帰農し、地域へと還って行きました。現代社会に視線を戻せば、団塊世代のサラリーマンや派遣社員が企業から大量に放出され、職を失って家庭、地域に戻ってくるというのが現状です。

 彼らが地域コミュニティで自らの発意と工夫によって知価を産み出す方法の一つに、本書の命題であるコミュニティ・ビジネスがあります。このコミュニティ・ビジネスは、自己雇用によって生きがいや働きがいを生み出す効果とスモール・ビジネスを通して地域コミュニティに多少なりとも貢献できるという利点があります。行き場を失った(社会的排除にあった)人たちの受け皿として、地域コミュニティがその基点になることで、再び彼らを地域社会に取り戻すことに繋がるのではないでしょうか。等身大で無理をせず、“なりわい”を生む小さな仕事が本当に必要になってきているのです。コミュニティ・ビジネスは、そうした時代の要請から生まれ、市民・住民が等身大で自立して暮らしていく方法の一つとして、今後ますます必要とされることでしょう。

 本書を上梓するにあたっては、初版の拙著『コミュニティ・ビジネス』(中央大学出版部)発行以来、多くの方々にご教示、ご支援、ご協力をいただきました。地域コミュニティの現場では、多くの方から暖かい励ましと適切なアドバイスをいただきました。再びここにその改定版を出せることに望外の喜びを感じます。

 編集作業は、筆者が代表を務めるコミュニティビジネス総合研究所の有償ボランティア・スタッフであった横山梓(当時東京大学大学院生)さん、そして現在も強力な支援スタッフである東海林伸篤(コミュニティ・ビジネス・ネットワーク事務局長)さん、山下琴恵(コミュニティ・ビジネス・ネットワーク・スタッフ)さんの両君にも手伝ってもらいました。この場を借りまして多くのみなさまに深く感謝の意を申し上げます。なお、今回大幅な改訂を行いましたが、文意の都合上、初版時のまま掲載した箇所もあります。そうしたこともお含みおきいただければ幸いです。最後に、出版の機会を与えてくださった学芸出版社の前田裕資さん、小丸和恵さんにあらためて感謝を申し上げます。

二〇一〇年 実りの秋
江ノ電走る鎌倉高校前駅のプラットホームにて
 
細内 信孝