観光まちづくりのマーケティング


はじめに


 私にとって、待望の本である。
 編著者がこう言うと、「書き手」として、書きたいことや言いたい主張が存分に盛り込まれている書という意味だと思われるかもしれないが、そうではなく、「読み手」としてである。なぜなら、ここ10年余り、特に「観光まちづくり」が1つのブームのように盛り上がっているなかで、漠と考えていた疑念に答えをくれ、そして観光まちづくりの課題に1つの解答を提示してくれているからである。
 本書はタイトルからもわかるように広い意味でのマーケティングに関する本であるが、その特徴は地域を総体として捉えて各章を論じていることである。マーケティングやブランディング、プロモーションに関しては、個々の旅行商品や観光施設に関する議論はよく目にする。またMICE戦略やホスピタリティに関しては、旅館や会議場といった施設単位での議論をよく目にする。しかし、1つの個性を持った地域として、観光まちづくりのなかで、地域の側が、主体性を持って、観光客を誘致するのか、来訪者を確保するのかといった視点が書かれている点に本書のユニークさがある。
 本書が想定している主たる対象は、各地で観光まちづくりに携わる方々、およびこれから観光まちづくりを始めようとする地域の方々ではあるが、なかでも特に、まちづくりとマーケティングという異なる職能を持った方々がお互いに連携や調整を図る上で必要となる「ベーシックな共通認識」、すなわち「観光まちづくりにおけるマーケティングの基本的なものの見方・捉え方」を共有できることを第一のねらいとしている。
 前半部の1〜3章では、観光地の「マーケティング」「ブランディング」「プロモーション」を取り上げている。どの章も、基本的な概念や必要性を明確化した上で、地域戦略としての展開手法について事例を交えながら解説している。4章では「観光地のMICE戦略」を取り上げている。なぜマーケティングの本に、と感じられる方もおられようが、通読してみると、MICE誘致と通常の観光誘致との共通点、相違点が浮き彫りになりその大切さが実感できる。締めくくりは「観光地のホスピタリティ」と題して、観光まちづくりを進めるためにはどんな地域でも不可欠となる「ホスピタリティ」のあり方を解説している。
 執筆していただいたのは、現在その分野で最も先を行っている方々である。多忙ななか、時間を割いて、日頃の研究成果の一端を著していただいた各執筆者には敬意を表したい。
 なお、本書は、経済産業省が2005〜2007年にかけて実施した「集客交流経営人材のあり方に関する調査研究事業」(調査委託先:財団法人日本交通公社)での成果作成に関わったメンバー有志が集い、新たな議論を加えて、組み立て直し作り上げたものである。本事業に関わった関係者の皆様に、この場を借りて謝意を伝えたい。
 最後に、出版に際し、本書の構成を考えていく段階から丁寧なご指導と助言をいただいた学芸出版社の前田裕資氏と編集の労をおとりいただいた森國洋行氏に心から感謝申し上げる。

2010年10月 
十代田朗