撤退の農村計画
過疎地域からはじまる戦略的再編

おわりに


 この本では「撤退の農村計画」と題して、過疎地域を起点とした人口減少時代の国土の戦略的再編の可能性について、様々な角度から論じてきた。最後に、この本の土台となった共同研究会と、その重要な特徴、そして「次の一歩」について述べておきたい。
 4年前の2006年5月に、私たちは、「撤退の農村計画」という名の共同研究会を立ち上げた。当時、過疎地域の対策として、人口増加を前提としたような「活性化」しか論じられない状況に疑問を呈する思いで始めた。なりゆきまかせの衰退である「消極的な撤退」と相対するかたちで「積極的な撤退」という概念を打ち出し、研究や討論を始めたが、「撤退」という過激な名前のためか風当たりも強かった。
 そのようななか、研究会のメンバーは過去の研究成果や事例の収集、現地踏査などを積極的に進めた。時に新聞や雑誌で紹介されたこともあった。それらが奏功してか、年を追うごとに、「積極的な撤退」への風当たりは弱くなったように思う。
 この共同研究会の重要な特徴はネット上の情報共有・討論の場である。「積極的な撤退」を実践にたえるものに仕上げるためには、研究者だけでなく、行政機関や民間企業の実務者、さらには実際に農村に暮らし農業に従事する人など、多様な視点が不可欠である。メンバーがどこにいても話し合いに参加できる場が必要である。そこでオープンソースのブログソフトウェアであるWordPressをベースに、「ネット上の情報共有・討論の場」を開発し、運用を続けてきた。この本の土台のひとつはこのシステムにあると、開発・運用担当でもある私は自負している。
 この本は「議論・研究の終点」ではなく「出発点」である。このままでは、実践にたえることはできない。私たちは読者のみなさまとともに、「次の一歩」を踏み出したいと考えている。いわば「開かれた本」でありたいと思う。共同研究会「撤退の農村計画」のウェブサイトにこの本についての意見交換の場を設置するので、ぜひ参加してほしい(ご入場の際は、この「あとがき」の最後に記したパスワードが必要)。
 また、この本に関する討論のみにあきたらず、共同研究会に参加したいという方は、ウェブサイトのなかの「はじめての方へ」に、その手順が記してあるので、そちらを見てほしい。研究といっても、決して堅苦しいものではない。気楽な意見交換と考えてほしい。
 この本の出版にご尽力くださった学芸出版社の前田裕資氏と中木保代氏に心から御礼を申し上げる次第である。共同研究会のメンバーの方々にもこの場を借りて御礼申し上げたい。なかでも小田切徳美氏、須之部薫氏、竹井俊一氏、藤田薫二氏、前川恵美子氏、松田紗恵子氏、松田裕之氏、吉田桂子氏、若菜千穂氏、渡邉敬逸氏に感謝する。また、澤田雅浩氏にも感謝する。
 現在の社会は決して楽観できる状況とはいえないが、この本が国土の戦略的再編の礎となり、未来の日本国民の憂いができる限り少なくなることを、編者のひとりとして心から願ってやまない。

2010年7月吉日
齋藤 晋