ドイツの地域再生戦略 コミュニティ・マネージメント


はじめに


 2000年代に入り都市づくりの手法は大きく変容している。ドイツでは、1990年代のEUの都市政策に関する議論やEU内の他国の影響を受け、2000年代に入って様々な試みがなされてきた。それは、現代社会が抱える多くの問題を解決しつつ、持続可能型社会を目指すものである。
 ドイツは環境先進国として注目され、美しい国土形成やそれを支える都市計画制度などのモデルとされてきた。しかし一方で、日本と同様の人口減少社会であり、また若年層の失業問題や広がる格差問題、グローバリズムによる経済空洞化、さらに移民社会としての多くの社会問題に悩む社会でもある。
 ドイツでは、衰退の目立つ問題地域が多く存在しており、それらの地域は、市街地が構造的に疲弊し、環境が悪化している。空き家や空きビルの増加、住宅の管理の放棄、緑の不足やゴミ問題、交通安全性や利便性などの、住宅や居住環境の問題を抱えている。さらに、貧困層が集中しており、長期失業者や若年失業者、また外国からの移民が多く、子供の教育問題や福祉の問題を抱えている。しかし、多国籍の居住者間の相互理解の不足や生活の余裕のなさから、住民参加が行われにくくコミュニティも崩壊している。
 ドイツでは、このような問題地域を再生するために、1999年から「社会都市」というプログラムを連邦全土で開始した。「社会都市」は、サスティナブル・コミュニティを実現することを目指しており、そのために、環境、経済、社会の総合的な側面からの地域再生を進めるというものである。これは、工業社会からポスト工業社会を経て、新たな時代に向かう価値観の転換を伴った再生であり、ある種の明解な概念的枠組みを持つ。そこでは、グローバリズムに対する「ローカリズム」の推進、上下関係のあるトップダウンからボトムアップを経て、さらにフラットな関係性である「パートナーシップ」の実現、公的セクターと企業セクターが牽引した社会に対して、新たなパワーを担う「市民セクター」の強化、要素還元型アプローチに対して、包括性と相互のシナジー効果を重視した「統合型アプローチ」の推進など、価値の転換に基づく様々な手法やアプローチがベースとなっている。
 そして、それらが実社会で多くの人が関わりつつ、このような社会的な背景や価値観の転換などを意識せずに、誰もが参画し実現できるように束ねられ、1つのパッケージとして構築され進められている。この実現のためのキーとなる仕組みが、本書で紹介する「コミュニティ・マネージメント」である。
 コミュニティ・マネージメントは、主として衰退市街地を対象としたコミュニティ再生の仕組みであり、地域の環境、安全や福祉、教育や文化、経済や雇用を含めた包括的な再生を行うという特徴を持っている。また、住民等の人の活性化や社会的ネットワークの形成そのものも重要な目的としている。すなわち、地域内の様々な人々や集団の意欲や郷土意識を喚起して集約し、その結果、地域の関係者らが協力して自主的に地域のための活動に取り組み、地域を総合的に改善することを目指している。このような幅広い活動を、効果的に進めるための工夫が随所になされており、全体で1つの仕組みとして確立されつつある。
 日本では、人口減少社会を迎えて、今後の縮小都市や衰退市街地のあり方が議論されている。併せて、貧困の問題や格差社会の問題がクローズアップされている。経済の衰退や人口の減少により、様々な問題を抱える荒廃地域は多く、さらに、若年失業者や高齢の低所得者層により疲弊する地域が、今後さらに問題になってくると考えられる。
 一方で、様々な地域におけるマネージメントが重視され、タウン・マネージメント、さらにエリア・マネージメントが着目され、各地ですでに取り組みが始まっている。本書で紹介するコミュニティ・マネージメントとこれらは共通する部分も多い。コミュニティ・マネージメントは、本質的には地域をベースとした一種の社会変革である。したがって、衰退地域に限らず、様々な地域で各地に応じたフレクシブルな取り組みが可能と考える。
 本書は、様々な地域でその再生やコミュニティの問題に関わる全ての方々、研究者や学生はもとより、まちづくり専門家、行政担当者、政治家、NPO、地域ビジネスを検討している方々、商店街関係者、さらに広くまちづくりに関心のある住民の方々が、これからの社会とまちづくりを考えるうえでのヒントになるものと思っている。