〈東大まちづくり大学院シリーズ〉
低炭素都市
これからのまちづくり

おわりに

 2009年12月19日15時過ぎ(現地時刻)、気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)は2週間の会期を1日延長してようやく閉会した。1997年に採択された京都議定書の後継となる国際約束を結ぶことが、この締約国会議に当初は期待されていた。しかし、アフリカなどを中心に、いくつかの途上国の根強い反対があった。会議開催に先立って、約束自体の採択は延期することにしていたものの、20ヶ国以上の首脳の直々の協議の結果、「締約国会議は、コペンハーゲン合意(コペンハーゲン・アコード)に留意する」ことを、その全体会合の決定として採択することができた。2010年からは、新たな国際約束に向け、このコペンハーゲン合意を土台とした肉付け作業が始まる。
 コペンハーゲン合意の持つ歴史的意義は、欧州や日本などで支えてきた世界の温暖化対策を、いよいよ米国や中国などが参加したものへとステップアップさせることにある。米中両国だけに絞っても、世界のCO2排出量の40%以上を占める。この2国に京都議定書傘下の先進国分を合わせると、カバー率は70%近くにもなる。CO2の削減取り組みが、世界の政治や経済市場の共通アジェンダとなるのである。
 インプリケーションは、排出の多い発電所や、世界に流通する製品を作る製造業だけにとどまらない。まちづくりや都市経営、金融、そして人々の日常生活など広範な分野に影響が及ぶ。
 コペンハーゲン合意が参照しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)レポートでは様々な科学的知見を収めているが、これに基づくと、温暖化を止めるには世界のCO2等の排出量を2050年には1990年比で50%以上削減する必要がある。先進国に限れば、20年には25%、50年には80%以上の削減が必要となる。このような大幅な削減には、国土や都市の構造、社会のルールにまで及ぶ根本的な変革が避けて通れない。まさに国難ともいえる試練であるが、その変革の結果が、世界各国に役に立つ、という意味では、大きな国際貢献でもあり、ビジネスチャンスでもある。本書が、読者諸賢に活用され、人類にチャンスを呼び込むことに役立つよう期待したい。
小林光・大西隆