成功するコミュニティバス
みんなで創り、守り、育てる地域公共交通

おわりに


 1980年代に、自治体による公共交通空白地域解消のためのバス運行が始まった。しかし、その動きは全国に広まるまでには至らなかった。それが1995年の武蔵野市ムーバスで一気に花開いた。その理由は、従来の路線バスの殻を破った斬新な外観と、徹底的に利用者の目線に立って練り上げられた運行形態にあった。

 『新・ふるさとバス白書』(技報堂出版、1998)によると、ムーバスの企画に携わった故・岡並木氏は、コミュニティバスに大切なこととして「常に見直し修正する心と目」「真似するのは形ではなく、住民の本音をつかんでシステムに組み上げるプロセス」を挙げている。調査手法としては、グループインタビューと、高齢者の街中での行動観察を主に用いたという。それを元に決めたルートを実験走行している際に、ある検討委員が「こりゃぁ、町内会バスだな」と言ったという。これこそが、コミュニティを冠することができるバスの姿であろう。町内会単位での地域コミュニティにとって必要な移動手段とは何かを、地域とともに考え、実現し、見直していく。これがコミュニティバスの真の姿であり、地域公共交通が再生するための要諦でもある。

 この考えを踏まえ、本書は、コミュニティバスを成功に導くための考え方や方法、あるいは、それを取り巻く法制度などについてさまざまな角度から解説してきた。今一度、強調しておきたいことは、コミュニティバスは、ただ走らせることが目的ではなく、その実現のプロセスに大きな可能性が秘められていることである。それを、本書を手にした方々にはご理解いただけたと思う。

 思い返せば、2007年1月に、中京大学名古屋キャンパスにおいて、本書の執筆者らが中心となって、地域公共交通フォーラム「みんなで創り・守り・育てるコミュニティバス―地域公共交通の再構築を目指して―」を開催した。参加者は、総勢120名を超え、コミュニティバスに対する期待の高さと、また、コミュニティバス運行を指南する書籍が社会から切望されていることを再認識する機会となった。その後、何人もの方々から、「本の出版はいつか?」との問い合わせがあったものの、より読みやすく、より最新にとの思いで内容の書き直しを進めているうちに時間ばかりが過ぎてしまった。結局、本書を望んでおられた方々を長らく待たせしてしまうことになってしまった。

 本書の出版の構想が立ち上がってから早3年、途中、幾度もの紆余曲折を経ながら、やっとここまでたどり着いた。この間、財団法人豊田都市交通研究所からは、中部地域公共交通研究会の活動を人的、費用的な面も含めて全面的にご支援いただくとともに、本書の執筆活動に当たっても、ご理解とご支援をいただいた。そして何より、学芸出版社の永井美保氏には、この長い間、最後まで辛抱強く支えていただくとともに、本書の完成度を高めるため惜しみないご助言をいただいた。ここに記して感謝申し上げる。
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