コミュニティビジネス入門
地域市民の社会的事業

はじめに

 近年、地域経済の衰退や地域環境の悪化など、我々をめぐる社会では様々な問題が山積しています。これらは、20世紀における、自然を尊重しない環境開発、利益重視の経済活動、人間性を軽視した社会制度などによって生じたものであり、これらの問題を解決するためには、経済・社会・環境の多元的な視点からのアプローチが必要となっています。そして、現在、このような複雑な諸問題を解決し、21世紀における持続可能な社会を実現するためのキーワードとして注目されているものが、「コミュニティ」の概念です。持続可能な社会の実現のためには、地域が主体となり、地域の歴史的な蓄積や生活文化等の豊かさを守り育てていくことが求められています。こうした地域の豊かな歴史や風土、生活や産業を将来に継承していくためには、地域資源を主体的に管理していく社会基盤としての「コミュニティ」の再構築が必要となっています。
 本書は、このような、20世紀の負の遺産を解消し、21世紀にふさわしい持続可能な社会を築いていく基礎となるコミュニティの重要性や地域の持続的な発展を支える新たなビジネスとしての「コミュニティビジネス」を学ぶ教科書として書かれました。現在、コミュニティビジネスに関する講義は、全国の様々な大学で設けられています。本書では、こうした注目を集めているコミュニティビジネスの基本概念を踏まえ、コミュニティビジネスの魅力や可能性について理解できる入門書となっています。特に、コミュニティビジネスを初めて学ぶ学生や市民の方々にも、コミュニティビジネスの基本的な知識や具体的なビジネスモデルを理解できるよう、多くの事例を盛り込むとともに、各講には、推薦図書や簡単な設問を設けています。巻末には用語集をまとめ、基本的な用語を踏まえながら、コミュニティビジネスの総合的な理解ができるよう配慮しました。
 また本書は、現在、様々な大学でコミュニティビジネスの講義を受け持っている教員及び実践の場でコミュニティビジネスに携わっている実務者との協働によって生まれた「理論と実践」をつなぐ教科書であり、「コミュニティビジネス」「社会的企業論」「非営利経営論」等の講義で広く使われるための教科書となっています。コミュニティビジネスという新たな分野が定着してきた今日、基本概念を踏まえつつ、まちづくりや医療福祉、子育て、生協活動やワーカーズコレクティブなど、新たな領域に広がる「コミュニティビジネス」の全体像をつかみながら、その発展性を示す教科書を書き記したいという著者の使命感から生まれたものです。
 本書の主な構成としましては、まず、第1講では、持続可能な社会の基盤となる「コミュニティ」の役割やそれらの連携によって育まれる「コモンズ社会」の重要性を理解するとともに、その実現の鍵となる「コミュニティビジネス」の発展過程や今後の可能性について学んでいきます。
 続いて、第2講では、コミュニティビジネスが発展を遂げてきた背景となる「協働型社会」について、コミュニティビジネスの先進国であるヨーロッパの動向も理解しながら学んでいきます。
 第3講では、コミュニティビジネスの事業的な特徴やその基盤となる「志」のビジネスや「社会起業家」といった概念について学んでいきます。特に一般的なビジネス、行政サービスとの共通点、相違点などを整理して、コミュニティビジネス特有の性質について理解していきます。
 さらに、第4講では、コミュニティビジネスの経営面に焦点を当てながら、コミュニティビジネスの組織の在り方や特徴について学んでいきます。その中では地域のニーズに応えていくための組織としてのガバナンスの重要性についても触れていきます。
 第5講では、以上の基本概念を踏まえて、具体的な事例をあげながら、コミュニティビジネスの実態や可能性について学んでいきます。特に、ここでは、消費生活協同組合を中心とした協同組合の特性やその事業規模などに注目し、コミュニティビジネスを行う上での生活協同組合の可能性について触れています。
 そして、第6講では、地域の細かなニーズや課題の解決を目的としているコミュニティビジネスに注目し、このような組織が、経営に関する知識や事業分野の専門性をどのように克服していったのか、その様々なアプローチやそれらに対する支援制度など、様々な法制度や行政施策などについて学んでいきます。
 最後に、第7講では、これからの展開が期待されるコミュニティビジネスによる新たなまちづくり事業の可能性について学んでいきます。これまでのまちづくりは、行政中心で進められることが多く、コミュニティビジネスの登場は、まちづくりの新たな可能性を提示しています。
 今日、地域の課題を解決する地域密着型の「コミュニティビジネス」や社会問題の解決を目指した「ソーシャルビジネス」など、新たな働き方が注目を集めています。こうした「コミュニティビジネス」やその担い手としての「社会起業家」の潮流は、疲弊した日本経済や衰退した地域に元気を吹き込む新たな希望となっていくでしょう。本書は、混迷する現代社会の中で、こうした社会改革、地域再生の担い手として新たなチャレンジに挑もうとする「志」を持った人々の将来に向けた羅針盤として寄与するものとなれば著者として望外の喜びであります。
2009年10月
著者を代表して
風見正三