米国の中心市街地再生
エリアを個性化するまちづくり

おわりに

 テーマ地区とは、ある地域に広がる空間資源と人々を結びつける「場」のようなものである。街づくり組織は、その資源を掘り起こして活用し、足りない要素があれば追加して、地区全体の一体感や世界観をつくる。これを人々に提供し、その場を体験した人に「再び訪れたい」「この地に暮らしたい」という気持ちを起こさせる。こうして集まった人や活動やビジネスが地域に再び活力をもたらす。地域の資源は多様であり、中心市街地には人を引きつける多様な「場」が生まれる可能性が眠っている。だからこそ、テーマ地区を重層化させ個性的なエリアとして育てていくことが、中心市街地再生の目標になるのだ。
 個性的なエリアは計画的に作ることができる。そのことを私に実感させてくれたのは本書第3章で紹介したロウアータウン再開発会社のウェイミング・ルー氏であった。約10年前のある国際会議にゲストスピーカーとして招聘されていたルー氏は、空洞化していた倉庫地区が、いかにして住宅やスモールオフィス、賑やかな店舗の集まる地区へと転換したか、そのダイナミックな変化をLRCがいかに導いてきたか力強く語っていた。LRCの取り組みは果たして日本でも可能なのだろうか。そうした問題意識が本研究の原点にある。文科省在外研究員としてのセントポール滞在中、氏からは本当に多くのことを学ばせていただいた。
 本書は1999年から2008年までの10年間に米国都市再生の現場から学んだ知見をまとめたものである。この間に21都市を調査する機会を得た。そこで出会った地元組織の人たちは皆ダウンタウンを愛している。彼/彼女らがいて草の根レベルの活力があり、新しいアイデアを取り入れていく先見性と試行錯誤の末に方向修正する柔軟さが米国社会にある限り、米国のダウンタウンは強い。
 本書の原型となったのは2004年に東京大学に提出した博士論文である。恩師である西村幸夫先生、北沢猛先生にはこの場を借りて心からお礼を申し上げたい。また、本書をまとめる機会を与えていただき、脱稿まで4年超もの長い間根気よく具体的にアドバイスをいただいた学芸出版社の前田裕資さん、同氏とともに編集をご担当いただいた知念靖広さんにも心から感謝している。
 この本が、日本各地で中心市街地や地域の再生に取り組む人達に何らかのヒントを提供できれば幸いである。加えて、本書を踏み台に次なる新たな米国ダウンタウン研究が生まれてくることを願っている。
 2009年7月17日
遠藤 新