温泉地再生

地域の知恵が魅力を紡ぐ

おわりに

 

 温泉地をとりまく環境や見通しには厳しい側面ばかりが強調されがちである。しかし本書の目的は、衰退の原因をあげつらい、課題をまとめることにはない。各地のチャレンジやインタビューなどから、新しい時代の温泉地再生の方向性を考えてみることである。

 時代は大きな転換期を迎え、今、温泉地は、新しい価値を創造し、現代的な存在意義を確立しなければならない時にきている。といってもその未来は過去の延長にはない。それを認めるには勇気がいる。モデルがないからである。しかしお会いした温泉地のリーダーたちから不安は感じられなかった。彼らは、未来を知っているのではなく、信じている。信じることが力になっているのだ。

 リーダーたちとのインタビューは毎回刺激的であった。温泉地へのほとばしるような熱い思いから、いつしか話は温泉地をとびこえて、人間の不思議さや面白さへと話題が広がっていくこともたびたびであった。

 温泉地も観光も人間のこと。

 そしてたどり着いた結論は、課題は温泉地の外にあるのではないということ。市場の変化や温泉地の構造変化にその原因を求めても結局何も変わらないのだ。人間、すなわち訪れる人とそこに住む人にとっての温泉地の存在意義を自ら見つけ出し、そして自分たちが行動する。実際、自ら活気を取り戻そうと動き始めた温泉地には、思わぬサポーターが集まり、それに惹きつけられる旅行者が訪れるのを見てきた。社会的な追い風も吹き始めている。

 旅館経営者をはじめとする地域の人々の自助努力しか、温泉地を良くしていく方法はないのである。旅館経営者が地域で果たすべき役割の大きいことを改めて知った。旅館経営者自身だけでなく、温泉地をとりまく多くの人々も、是非その役割の大きさを認識して欲しい。

 私自身、温泉地はこれからもっと人々の生き方の質( QOL )に影響を与える大切な場所になれると信じている。本書が何かのヒントやきっかけとなり、大好きな温泉地が元気になれば、最高の幸せである。

 この本の執筆にあたっては、多くの方のご支援、ご協力をいただいた。

 まず、私の取材、インタビューに快く応じてくださった、すべての温泉地の皆様に心から感謝申し上げたい。本書に掲載することのできなかった温泉地の方々からいただいたご厚情と熱い思いも私の心の糧である。

 また、勤務先である財団法人日本交通公社の観光文化振興基金により取材の一部と出版が実現したことは、とても幸運なことであり、たいへん感謝している。

JTB 協定旅館ホテル連盟本部の方々にも貴重な機会をいただいた。この機会がこの本の出発点であり、本当にありがたく思っている。

 「温泉地は元気で面白いんです」と企画提案したまま原稿の進まない私を見捨てず励まして下さった学芸出版社の永井美保さんにも御礼申し上げたい。本のあとがきに編集者の名前があるのは慣例ではなく、書かずにはいられない気持ちなのだということが初めてわかった。

 最後に、上司の小林英俊常務理事には、本書全般にわたっての多大な助言と指導をいただいた。また、観光研究の意義や素晴らしさについて、理屈と感性の両面から教えてもらった。最終章をまとめるための連日の議論は、私のかけがえのない財産となり、この感謝の気持ちは言葉に尽くせない。

 他にもお世話になったすべての方、そして私の家族にも心から感謝の念を記したい。

 本当にありがとうございました。

  
二〇〇八年五月
久保田美穂子