持続可能なまちは小さく、美しい


おわりに

 初めて上勝町を訪れてから、9年がたちました。その間、いろどり農業やゼロ・ウェイスト政策などの取材をするうちに、町職員の東ひとみさんが町の人たちの中に分け入る扉を開いてくれ、たくさんの人たちと知遇を得ることができました。町長の笠松和市さんもその1人です。こうして、この本をまとめる素地が生まれました。

 本の内容についての笠松さんとの話し合いは、楽しいものでした。たとえば、笠松さんがすべてのごみを有価で回収する「資源回収法」(仮称)について説明をします。これに対して私が、ごみには排水のような液体や、排ガスのような気体もあると応じます。すると、次に会うときには、笠松さんは資源回収法では固体のごみだけでなく、液体のごみや気体のごみも有価での回収を義務づけようというように、内容が進化していきました。

 この本は当初、上勝町のまちづくりについてまとめる予定でした。しかし、笠松さんをはじめ、多くの方々から木材とみかん景気に沸く半世紀前の町の様子を聞くにつれ、豊かだったこの山村が衰退した原因を考えるようになり、グローバリゼーションの影響に言及することにしました。そのため、原稿の完成には予定より時間がかかってしまいましたが、つたないながらも、現在の段階で私なりに考えたことをまとめることができたと思います。

 原稿をまとめているうちに、わかったことがあります。それは、農業を衰退へと導いた農業基本法は私が生まれた1961(昭和36)年に制定され、農産物や林産物の輸入自由化も同じ時期に始まっていることでした。上勝町に起きたことは、東北の農村で生まれ育った私にとっても、いつか考えなければならない自分自身の問題だったのです。そして、そのテーマを考える舞台が、自分の故郷ではなく、上勝町になったのは、私にとって幸運だったと思います。知名度の高い自治体の事例を通して、農山村が抱える問題をより多くの人に知ってもらう機会に恵まれたからです。この本は、上勝町を襲ったグローバリゼーションの影響を、この町がどう乗り越えようとしたのかを記録していますが、農山村に押し寄せる大きな力はどの地域にも共通したものであり、持続可能性を再構築するために何が必要なのかを多くの人に考えていただくきっかけになることを祈っています。

 上勝町の取材では、多くの方々にご協力いただきました。特に渡辺愚風・厚子さん夫妻、高橋信幸・小枝子さん夫妻、笠松和市・広美さん夫妻にはいつも、快適な宿と心まで癒される食事をご用意いただきました。赤澤唯夫さん、城田清志さんには、上勝町の様子を伝える貴重な写真を提供していただきました。また、前作に続き、学芸出版社の宮本裕美さんには編集全般にわたって、たいへんお世話になりました。どの人の協力がなくとも、この本が完成することはありませんでした。ご協力くださいましたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。

佐藤由美